「先生、僕はね、」
教室の授業に集中できず、「やる気がないようなので別のお部屋で勉強してください」と教科の先生に言われて出てきた中学生。
静かな空き教室に行くと、とても穏やかな表情でワークブックを解く手を止めて、その子は話し始めた。
「僕は、大人になったらスゴイ人になってやろうとか、そういうことは考えてないの。ただね、”今日は休みの日だからちょっといいバターを塗ったトーストを食べよう”とかさ、そういうちょっとした贅沢をしてさ、家族でね、そういう幸せを感じられたらいいなって思ってるんだ」
あたたかな光景と、それを望む彼のシンとした表情が、薄暗い教室に溶けていく。
トーストとバターの香りの向こうに君が居て、君の家族がいて、君が満足気に少し笑う。その姿が、見える気がした。見たいと願った。