無題(母型) 内藤礼 横浜トリエンナーレ2008
横浜トリエンナーレ2008 のレポートです。
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Naito Rei
2008
無題(母型)
内藤礼
1961年広島県生まれ。東京在住。
日本庭園・三渓園にある、横笛庵に、内藤礼の作品がありました。
横笛庵は、尼僧のための小さな庵です。
ビニール、糸、ビーズ、コンロ サイズ可変
天井から垂れる糸。床にはコンロが置かれています。
コンロの熱は空気をかき混ぜ、糸をやさしく揺らします。
見る人の存在や、光や風など、
刻々と変わるもの、人為的に制御できない風景、環境。
内藤礼は、そういった、「作り手の作為を超えたもの」へ、アプローチしています。
この作品の、糸は、熱や外からの風に対して、なすすべもなく、ただよわされています。
物事が思うように行かないときに、私たちは、心が置き去りにされたようで、苦しくなります。
自分の能力は無限だと思いたくても、必ず限界がある。
たとえば、生命も、永遠ではありません。
そんな、どうしようもない悲しい現実を、自分の内面で受け止め、咀嚼し、
納得した上で受け入れられるようになった、そのときに、
自然を、他者を、本当に愛することができるのですね。
内藤礼の繊細な作品は、同じく日本女性である私に、言葉よりも雄弁に、人間の本質を伝えてくれました。
三渓園での、この作品、他の場所での展示がもはや考えられないほどに、
ぴったりの居場所を見つけていると思いませんか?
この作品についてのコメントではありませんが、内藤さんへのインタビュー記事に、
私がとても共感し、うなずく部分があったので、ここに、抜粋して書き写します。
「作品と周囲の環境とは、本来は切り離せないものです。
世界から孤立して作品が存在することはありえないし、
作品は作品からひとりで生まれてくるわけではない。
そう思うようになりました。
純粋なものから純粋なものが生まれる、
と思っていた若い頃にはわかりませんでしたが、
聖なるものは俗を通してしか顕れません。
だから日常から、なるべく離れないようにしたい。
それが本当の強さであり、現実です。
汚れないように自分を守ろう、という意識では、世界と関わることはできません。
接しても晒されても美しいもの、晒されても清らかなものを見ることが、
本当の力となるのです。」
女性が持つたくましさを、私も忘れないようにします。
※引用は、美術出版社「美術手帖11月号 アーティストインタビュー内藤礼」からです。
このブログの前半の、作品の解釈についての文章は、同じインタビュー記事を参考にしています。
しかし、ヒントは得ましたが、そこからまた、作品を見ての私なりの解釈が加わっていますので、
内藤礼さんのダイレクトメッセージではないことを、お断りしておきます。
使用機器:OLYMPUS E300
撮影日:2008.11.23.
撮影地: 三渓園 横浜市中区本牧三之谷58-1
Photo:松本由歌子
YOKOHAMA 2008: International Triennale of Contemporary Art TIME CREVASSE
横浜トリエンナーレ2008 ときのさけ目 http://yokohamatriennale.jp/
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