金は大火にも焼けず大水にも漂わず朽ちず・賢人は金の如しー米雇用統計、 土木SPAに見る価値創造 | 蓮華 with にゃんこ達

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専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

米国雇用統計に関連して、長期失業者数が202万人と直近で最低を更新した5月の188.5万人から2ヵ月連続増加し、200万人台に戻してしまいました。

要因の一つは、売り手市場になってきた為に、求職活動を延長してでも、自分の希望に沿うポジションを探そうとする傾向が強くなりがちな事ですが、当然それだけでなく、以前拙ブログ記事でも

『この辺は、景気回復とはまた別個の深刻な問題も要因になっていて、ITが雇用の『数』を奪うというよりも、『質』の選別が顕著になる、一定水準に付いていけない、要するに『どうにも使えない人材』が滞留してしまう、潰しが利かない、という事が、昔の比ではなくなっている、という現状を考えねばなりませんね。』

と指摘した通りであり、

オバマ大統領がこうした人達の為に、コミュニティカレッジを無償化して再教育を図り、キャッチアップして貰うべく政策を推進してきた理由でもある訳です。

特に帰還兵など、国の為に命を賭けてきた軍人達がそうした状況に陥っている場合も多く、彼らが精神的に追い詰められたり、疎外感を味わったりしていて、

余談ですが、クリントン氏が受諾演説で、四年生以外の大学の重要性や、軍が国の宝であり、『命をかけてこの国に尽くしている人たちに敬意を払うべき』と言及していたのも、こうした背景を投影した内容なのですね。

話は変わります。

当ブログでも毎回御紹介しております個人投資家向けプログラムでは、募集要項(http://media.toriaez.jp/k0014/634846353257.pdf)にも書いた通り、
『単に株価の上げ下げや短期の売買を想定した御話は一切致しません』
ので、四半期や中間決算の数字、特に価値とはかけ離れた会計上の利益、を取り上げて一喜一憂するような話は全くしませんが、企業価値に影響する変化をフォローしていく必要性の上では、非常に有益な情報だと説明しています。

例えば、数カ月前に講義で取り上げたのが、2016年度の中間決算で建設業の上方修正が目立ち、特に、押しなべて主力の建築・土木事業の粗利が改善していた事が意味するモノ、

東北、そして熊本も加わってしまった震災復興、再開発、国土強靭化に絡んだ案件・・等々、受注は当然豊富にありますが、長年過当競争が続き、利益なき繁忙、がずっと問題視されてきた業界で、さらに最近は、人件費高騰、その為の工事進捗の遅れなども再三指摘されてきた環境、

そんな中で、全般に粗利、完成工事粗利の改善トレンドが明確になってきたのは、人手不足による施工能力低下で、ようやく選別受注が出来るようになってきた、その為に建設単価が上昇してきた、『利益ある繁忙』への変化、と捉えるべきだ、と言う話です。

企業価値の根本である単価=価格優位性を確保出来るようになってきているとすれば、景気循環の谷に入っても、企業価値がシッカリと創出出来る体質に変化しつつある、と考えられますね。

このように、色々な背景を探りながら、数字やニュースを見る事が出来るようにならねばならない、特に、環境の変化が競争優位性に及ぼす影響を捉える訓練が大事だという話なども、頻繁に講義の中に織り交ぜております。

・・と、ちょっとした宣伝がてら(笑)、前振りをしましたが、

このブログでは、出来るだけ地方などで競争優位性を発揮して頑張っている中小零細、基本非上場の企業をメインに取り上げていますので、建設・土木業界でも、長野県飯山市のフクザワコーポレーションを御紹介しましょう。

3年前にブログ記事に書いたHITOYOSHIの再生で、

『欧州の工房的な売り場と作業場が直結したSPA』、社員の力を最大限に活かす方法によって、地域で受け継がれる技術のブランド化をコンセプトとして打ち出した話をしました。

このフクザワも、非常に珍しい『土木SPA企業』です。

社員の7割が40歳未満、毎年5人前後の地元の高校、大学、大学院を卒業した新卒社員が入社してくる地場の中小企業、人気の理由は社員教育制度の充実が地元で知られ、その人材を活かして業績が大きく伸びている事で有名だからですね。約10年で売上は3倍、営業利益率は約20%です。

SPAと言いましたが、同社は業界では珍しく、土木施工と施工管理の両方を手掛けています。
施行と管理のノウハウは全く別物なので、教育の仕方も違いますし、どちらか一方に専念した方が経営的には楽です。

しかし同社では、現場の施工に約30人、施工管理に約15人の社員を配置し、専門のクレーン会社のような大型クレーンも自社所有、社員が操作します。

教育の充実、例えば、2000年からスタートした社内検定制度は、施工の技術、バックホウ(ショベルカー)の操作検定(1~6級)や型枠組み立ての検定(1~4級)など、独自制度を一から作り上げたものです。

土木では、こうした体系だった教育を行う企業は少なく、業界でも非常に注目を浴び、社内検定にも拘らず、合格者に長野県知事の認定が与えられるまでになりました。
こうして社員が鉄筋を組み、型枠を組み、コンクリートを打ち、バックホウもクレーンも扱える、『社内で何でもする』、つまり多能工を育て上げるのがフクザワの方針なのです。

施工管理でも同様に、土木施工管理技士などの資格取得を後押しする為に、社内で勉強会や模擬試験を始めました。

現在では、公共工事の一般入札制度が価格競争を招いた反省から、事業者の選定に価格以外の要素を加点する総合評価方式に移っており、工事の成績を高めたり、技術資格を持った社員が居ると加点される、つまり同社にとって有利な環境になってきています。

そしてもっと優位な点、それは、通常管理だけをする土木会社は複数の施工会社とスケジュール調整をする為、作業間で待ち時間が生じやすく、社内で大半の仕事がこなせるフクザワは、他社より工期が2割程度短縮出来ているのです。

同社は自社技術を基に、仕上がりと短工期の最適な施工方法を選択出来る為、発注者の評価も高く、利幅も多く取れます。

さらに、同社は作業効率化を図る為に、施工管理ソフトの自作も手掛けています。工事写真の管理や、除雪日報の作成時間を4分の1に短縮できるソフトなどを開発し、現在は10種類、1998年からは外販にも乗り出しています。
現場の知恵を活かした写真管理ソフトなどは、全国の同業者向けに31万本を販売、社内には10人のソフト開発担当がおり、現在ではソフト販売の別会社も設立し、顧客を広げています。

施工・管理を両立し、さらには管理ソフトも販売する戦略=土木版SPAによって、フクザワは長野県の優良技術者賞を12年連続で受賞しており、地元の学校関係者は毎年インターンを送っています。つまり、人手不足や市場縮小の悩みとは無縁の企業になっているのです。

同社のように、業界の常識に囚われず、教育の手間を惜しまず、困難をいとわずにチャレンジし、商品やサービスの質・完成度を高める事で顧客の信頼と評判、そして高い価値=『儲け』を獲得している、儲け=創造された価値は、従業員にも、顧客にも、地域にも、全てにWinWinで分配されていますね。

改めて、企業経営の現場を熟知する立場から言っておきますが・・・

企業というものが『価値を生み、それを利害関係者(ステークホルダー)に分配するシステム』=創造した価値をステークホルダー(顧客、取引先、従業員、債権者、国・地方自治体、株主)へ、対価として配分を行うことで継続される仕組みであり、サステイナビリティ(継続企業の原則)が前提である以上、

真っ当に稼ぎ続ける企業は『最大限の価値創造を継続的に行い、正当に収益を配分する義務』を負います。

完全競争市場が実現されていれば、必然的に公平公正な経済価値の分配が実現される、他のステークホルダーとの間でゼロサムの収奪関係など、生まれるはずもなく、ステークホルダーは全て対等です。

要するに、公平公正でオープンな競争環境になっていない事こそが、正当な経済価値の分配を阻害しているのであって、日本の構造改革や規制緩和が上手くいっていないのは、利権構造を残した中途半端なものだから、システムの一部だけを崩すような改革であるがゆえに、逆に最悪な状態になってしまうのです。

徹底した真の構造改革、本質に則った必要な規制緩和を、全体を俯瞰した制度設計の中でシッカリと行う事こそが、将来の価値創造と公平公正な経済価値の分配を促進する為に最も重要です。