彼女達の独白③ 仁王SS | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

ネクタイを緩める仕草。

ジャケットを羽織る瞬間。

重い荷物を持った時に浮かび上がる腕の血管。


何気ない仕草に、ギュッと胸がしまって、ジンと子宮が疼く瞬間がある。

それはたぶん女にしかわからない感覚。


だけどそれとは逆に、男にも女にははわからない感覚があるようだ。

男を興奮させるものが、胸や脚や裸だけなんて単純に考えてはいけないらしい。

いったいそれのどこが?と思うような事に反応するらしい。



この話は、それらを身を持って経験した彼女達の独白である。




仁王雅治の彼女の場合




同棲を始めた頃は色々と気を使ってたんですよ?

洗濯を乾すのも下着は隠したり、生理用品だってこそこそ処理してたし。

けど、自分の家なのにくつろげないってやっぱ窮屈じゃないですか?

そのうち諦めというか、開き直りというか・・・・段々と仮面が剥がれちゃって・・・・。

それが次第に当たり前になって、最初の頃の緊張感はどこ行った!?って感じになってたんですよ。

でも友達に「そんなんじゃ愛想つかされるよ?」って言われて、え?ヤバイ?って焦って。

確かにこのままじゃダメかも・・・・って思って、女度を上げるべく立ち上がったんですけどね――――





ブスッとした顔で携帯を弄る雅治の斜め後で、私は三角座りした膝の間に顔を埋めながら、雅治の不機嫌な理由を考えていた。



見もしないテレビをBGM代わりに着けながら、仕事帰りに化粧品と一緒に買ったマニキュアを足の爪に塗っていた。

なにが面白いのかビールの缶を方手にそれをじっと見つめていた雅治が「そう言わば・・・・」と、呟いた。



「最近脚の毛剃っとる姿見とらんけど、どこで処理しとるんじゃ?」

「ん?あぁ、言ってなかったっけ?脱毛したんだ。」

「は?」

「あと2回も行けばもう生えてこないんじゃないかな?」




雅治の機嫌が『良』から『悪』に切り替わったのはこの直後の事だ。


この会話のどこが悪かったのか?

どうして機嫌が悪くなったのか?


黙っていた事を怒っているのだろうか?

でも隠し事の一つや二つあったほうが刺激があってえぇじゃろ?と言っていたのは雅治だ。

それに別に隠していたわけでもなく、言う必要も無いかな?と思っていただけだ。


なら・・・・無駄遣いしやがって!と怒っているのだろうか?

でも、家賃も光熱費も食費も全て折半で、残りは自由に使っている。

雅治がなにに使おうが検索した事も口出しした事もないし、その逆も今まではなかった。


一体何に怒っているのだろう・・・?


機嫌が悪い時に「なんで怒ってるの?」なんて聞かれたらさらにイラッとする事はわかっているけど、理由もわからず怒られるのも腹が立つ。

私は思い切って聞いてみた。



「なんで怒ってるの?」
「・・・・・・・・・。」

「ねぇ、言いたいことあるなら言ってよ。」

「・・・・・・なんで脱毛なんかしたんじゃ?」

「え?」

「する必要があったんか?」




必要があったのか?

もちろん必要だと思ったからしたのだ。



同棲を始めた頃、一番大変だったのが無駄毛処理だった。

短大時代に脇脱毛だけはしていたけど、腕や脚の毛は剃らなきゃ生えてくる。


一緒にお風呂に入りたがるからなかなか無駄毛処理ができない。

雅治が上がってからと思うのに、なかなか上がらなくて私の方がのぼせてしまう。

仕方なく雅治が寝ている間や出勤後や帰宅前など、家にいない時を見計らって処理をしていた。

だけど慌てると肌を切ったり剃り残しがあったりしてしまう。

それでも最初のうちは頑張っていた。でも数ヶ月もしないうちに疲れてしまった。


剃るのを見られてもいいと開き直るか、それとも生やしたままでいるか。


それほど悩む事もなく前者を選んだ。

無駄毛ボーボーで仕事に行くよりも、彼氏に処理している姿を見られる方がマシだ。


開き直ってはみても、そんな姿を今まで人に見せた事なんてないわけで、最初は恥ずかしくて「みないでよ。」とか、背を向けたりもしていた。

しかし人間慣れとはすごい。

数回繰り返せば何にも思わなくなった。

雅治もとくに引くわけでもなく、「女は大変じゃな。」なんて言いながら、私が剃り終わるまで見ているのだ。



その話を友達にしたところ、かなりどん引きされた。

「ありえない。信じられない。」のオンパレードだ。

私も同棲する前なら同じ事を言っていただろう。




「でもさ、仕方ないんだって。隠れて処理するのは大変なんだもん。」

「じゃぁ脱毛すれば?」

「腕と脚したらすごい金額なるじゃん?」

「あんたね。そんなこと言って女捨てたようなことしてたら、彼氏に愛想つかされるよ?」

「えぇ~?」

「えぇ~じゃないよ。本気で少し危機感持ちなって。目の前で無駄毛処理するなんて色気も何もないでしょ?」

「うーん・・・・。」




この友達の一言に確かにヤバイかも。と思った私は、ネット調べ、早くて安くてかつ安心とクチコミ評価の高い脱毛クリニックへ駆け込んだのだった。




「だってさ。彼氏の前で無駄毛処理とかありえないかな?って・・・。」

「今さらじゃろ?」

「いや・・・・まぁそうなんだけど。あと・・・・ほら、面倒でしょ?」




友達に言われたから。とは言えず、適当な言葉を探しながらヘラリと笑って見せる。

だけど鋭い目で睨まれて、シュンと肩を縮ませながら視線を逸らした。


やっぱり怒ってる理由が見つからない。

勝手に行った事でも、お金の事でもなさそうだ。

なら何に怒ってるわけ・・・?


もう1度「どうして怒ってるの」なんて聞く勇気はなく、私は塗ったばかりの脚の爪を見つめていた。


重たい沈黙が二人の間に落ちる。

だけどその沈黙は長くは続かず、雅治の小さな呟きによって破られた。




「好きやったんじゃがのう・・・。」

「え?なにが?」

「お前が脚の毛剃っとるの見るの、俺は嫌やなかったぜよ。」




えーーーーーー!?


突然のカミングアウトに驚きの声をあげる前に体が後ろに仰け反った。

いや、確かに嫌そうな顔もしてなかったし、どこか楽しそうにも見えたけど・・・・。

彼女が脚の毛を剃ってるのを見るのが好きなんて・・・・ちょっとなんていうか・・・・変態?




「なんでお前が引いとるんじゃ?」

「だ、だってさ・・・・。」

「女にはわからんかもしれんがな、足首から膝にかけてカミソリを滑らせとる姿はけっこうグッとクルもんがある。」

「そ、そうなんだ・・・・。」



じゃぁなに?

怒ってた理由って、脱毛なんてしたら脚の毛を剃る姿が見れなくなるからって事!?

そんな熱く語られても私にはわかりませんから!!!




「わかったなら脱毛するんはやめんしゃい。」

「それは・・・・無理かな?」

「愛する彼氏のお願い聞いてくれんのか?」

「はは・・・・・絶対無理!!!!」




詰め寄って来る雅治の顔を押し返しながら私は拒絶の声を上げた。




結局脱毛したのかって?当たり前です。

あんな話聞いた後に脚の毛剃ってる姿なんて見せれませんよ!


男の人の感性っていうか、色欲って女にはわからないんでしょうかね?

まさか脚の毛を剃ってる姿に欲情するなんて思いもしませんでしたよ。


雅治はしばらく不機嫌MAXでしたけど、最近はペディキュアを塗るのを見て満足してるみたいですよ?

見ながらムラムラしてるのかな?って思うと恥ずかしいしやりづらいですけど、最近その視線がちょっと快感になってきちゃって。

無駄毛処理をしていた時よりも頻繁にペディキュア塗ってます。


女度が上がったのか下がったのかはわかりませんけど、2人のラブ度は上がったように思いますね。


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第3弾は仁王でした。


マニアック過ぎないかと思いましたが、まぁいっか。←


脚の毛を剃る姿を見るのが好きって男友達がいたんですよ。

「見せて。」とか言われたことないですけど、彼女のは見てたのかな・・・?ww