拍手用SS (白石SS) | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言


「『綺麗にひび入ってますね。』って、ひびに綺麗もクソもあるかー!!!!」




セミも鳴き出し、太陽もすっかり夏の顔。


数日前から夏休みに入り、全国大会も近いテニス部メンバーは、

ふざけたりおちゃらけたりしながらも、日々練習に励んでいた。


そんな彼らを支えるべく、マネージャーである私も、無駄にテンションをあげて頑張っていた。


なのに・・・・




「どないしてんその手?」

「なんやベッドから落ちて骨折ったらしいっすわ。」

「折れてへんわ!!ひびいっただけや!」

「どっちでも一緒ですやん。どんくっさい事には変わりないし。」

「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」




本気で泣きそうなほど人が凹んでるっていうのになんじゃこいつらは!!

ギプスのしてない反対の手でホースを持ち、水を撒き散らし集っていた輩を追い払った。


ギャーギャーと叫びながら散っていく姿に少しだけスッとしたけど

それで手が治るわけでもなく、再び溜息が漏れる。




「はぁ・・・・。」

「溜息ついたら幸せ逃げるんやで?」

「・・・・・白石か・・・。」




キラキラと爽やかな笑顔を浮かべながら現れた白石。

いつもはその笑顔で多少は元気になるんやけど、今日は効果なし。


ちらりと視線を向けただけでまた溜息を落とし、近場にあったベンチへ腰をおろすと、

白石も同じように隣へと腰掛けてきた。



小春の甲高い声と、金ちゃんと無駄にでかい声が遠くから聞こえてくる。

聞きなれたその声が、今日はやけに耳に響いた。




「大事な時期に・・・・・ごめんな・・・・。」




さっきから黙ったまま私の隣に座る白石。


きっと私が謝るタイミングをつかめずにいた事に気づいてたんやろう。

そして本当は部員みんなに謝らなあかんけど、

そんな事したら泣いてしまいそうやって事も、お見通しなんやと思う。


歯を食いしばりながら、白石の方へ思い切って顔を向けると、

さっきの爽やかな笑顔とは違う、優しい笑みが向けられた。


その笑顔に胸がジーンとして涙が零れそうになる。




「その手・・・・・」

「え?」

「なんやお揃いみたいやな。」

「はぁ?」




白石が指差したのは、私のギプスが嵌められた腕。

そしてそう言いながら自分の左腕を持ち上げて見せてくる・・・・・・。




「ほら、ペアルックみたいやろ?」

「そんなペアルック嫌やわ!!」




何を言い出すのかと思ったら包帯巻いた腕がペアルックやと!?

そんなん全然嬉しないし!!

ってか、私は好きで巻いてるんちゃうし!!


優しい笑みに心打たれた私の感動を返せ!!



「白石のあほ!!」と、捨て台詞を残し、コートに向かって歩き出すと、

クスクスと小さな笑い声と、私を追ってくる足音が聞こえる。


それでも無視して歩き続けていると、ぽんと頭に手が置かれた。




「その腕いつ治るん?」

「夏休み終わる頃くらいやって・・・・。」




夏休みが終わる頃に治ったって、大会は終わってるし私ら3年は引退。


普段からそんなに役に立ってんのかは不明やけど、おらんよりかはマシやったはず。

やけどこれじゃあ迷惑をかけるだけでしかない。


それでも傍でみんなの勇士を見ていたい。

誰よりも近くで応援したい。


わがままやとは思うけど、それでも・・・・・




「白石。私・・・・・」

「ほんなら・・・・・」

「え?」

「治るまでの間俺が自分のお世話係になったるわ。」

「・・・・・は?」




言うてる事の意味がよくわからんくて、歩いてた足を止めて白石を見上げた。

いまだに頭に乗せられたままの手が、クシャリと髪をかき乱す。




「ちょっと!」

「利き腕使われへんと不便やろ?」

「それはそうやけど・・・・」

「包帯巻くならお手のもんやで。」

「そんなん病院でしてもらうし!!」

「包帯解くんもお手のもんやで。」

「包帯解くくらい誰でもできるわ!」

「自分わかってへんわ。包帯解くにもコツとテクがいるんやで!!」




どんな売込みやねん!?とツッコミたくなるような白石のセリフに

怒鳴り返しながらもなんだか笑いが漏れた。


私の笑顔を見て、安心したのか調子に乗ったのか
「今ならもれなく俺の愛もついてくるで?」と、ウインクまで飛ばしてきた。



「めっちゃいらんわ・・・・。」

「嬉しいくせに。素直やないな・・・。」

「私はいっつも素直やし。」

「ま、そういうわけで、俺がしっかりお世話したるから・・・・・」

「どういうわけよ!?」




いつもの軽口を言い合う雰囲気に戻り、自然と顔に笑みが浮かぶ。

沈んでいた心も少しだけ軽くなった気もする。



さすが白石やな・・・なんて思っていると、白石の手が急に頬に伸びてきて、

追い風で流れてきて頬に張り付いていた髪を、そっと撫でるように掃った。




「だから・・・・・何の遠慮もせんと、俺の傍におったらええやん。」




指が触れた頬が急激に熱くなる・・・・。


冗談なんかそうやないんかわからん口調と笑顔に、胸の奥がざわざわとする。


それはマネージャーとしての私を気遣っての言葉なん?

それとも・・・・・・私自惚れてもいいん?




ぶつけてしまいたい疑問はいっぱいあったけど、

私の髪をもう1度くしゃくしゃとかき乱し、「な?」と微笑みを見せる白石に、

私はただ、小さくこくんと頷いた。







   始まりの予感

                 (なぁ。『ん~絶頂!』ってやってみてや。)

                         (絶対イヤッ!!)


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包帯のペアルックが書きたかっただけ・・・。(オイ)


あっつい夏に包帯巻いてたら腕は細くなるのだろうか・・・?←