待ちに待った舞台「太陽2068」を観てきました。
ストーリーは、
二十一世紀初頭、バイオテロより拡散したウイルスで人口は激減する。数年後、感染者の中で奇跡的に回復し、人間をはるかに上回る身体に変異する人々が現れる。頭脳明晰で、若く健康な肉体を長く維持できる反面、紫外線に弱く太陽光の下では活動できない欠点があった。彼らは、変異は進化の過程だと主張し、段々と人間社会を統治するようになって行く。変異体、ノクスの登場から約半世紀、普通の人間はノクス社会に依存しながら共存している。昼と夜に、別れてしまった未来。強く若い肉体を手に入れた夜の住人と、彼らの登場によって「古く」なってしまった普通の人達の対立が、"ある事件"をきっかけに動き始めていく・・・。
というお話です。
スーパーマンと一般人、どちらがしあわせだと思います?沢山の知識があっても、力が強くても、体力があっても、年を取らなくても、人間としての汚い部分が無かったら、面白くないでしょ。人間って、煩悩があるからこそ、可愛くて、憎めないんじゃないかと思うんです。もちろん、それが犯罪になったりもするんだけど、でも、エヘヘッて、舌をペロっと出しながら、つまみ食いしちゃったりするのって、可愛いよね。そういう、ちょっとした”ゆるい”ところって、大切なものでしょ。だけど、このノクスという人種は、理性のみで生きていて、緩い部分が無いんです。面白くないでしょ。
キュリオ(チェリオじゃないよ。)と呼ばれる旧式の人間は、力も弱く、知識も無くて、煩悩も沢山持っているけど、欲がある分、人への思いやりもあり、老人の面倒を若い者が見ているし、家族が人に迷惑をかけたらその責任を最後まで取るという責任感もあるんです。人との関わりを大切にしているんですね。人との関わりって、面倒だけど、それが無いと、なんか寂しい。なんか、面白くない。
こんな二つの種族が、一緒に生きて行くのって無理だと思いませんか?でも、主人公の奥寺鉄彦と森繁富士太は、ある日、友達になり、どちらも、その関わりによって、相手を思いやる気持ちを持ち始めるんです。鉄彦と関わったことにより、富士太は、理性だけでは割り切れない、何か、温かいものがある事に気が付いたのだと思うんです。そう、それは、彼にとって、太陽だったんじゃないかな。

ノクスは、太陽光を浴びる事が出来なくなり、温かい心っていうものを、どこかに置いてきてしまったんじゃないかな。温かさが無いから、ストレートに理性のみで行動出来るし、余計な人間の気持ちなど持たずに判断が出来るのだと思うんです。でもねぇ、それじゃ、人間として生きている意味が無いでしょ。ロボットで十分じゃないですか。
現代は、快適な暮らしを求めて、色々なものを簡素化し、人間が考えなくて良いような工夫がされて行くけれど、何か物足りないと思う気持ちは、何なんでしょう。スマホで、何でも調べる事が出来るようになったけど、でも、動物は、実物を触ってみないと解らないし、食べ物は、食べてみないと解らない。どれ程、知識があっても、「百聞は一見にしかず」なんです。だから、野菜を育てている人、料理を作っている人、動物の飼育をしている人など、アナログな旧式人間に、デジタルな新人類が勝てる訳が無いんです。

若い頃って、そういうデジタルよりアナログっていう良さが解らないんですよね。もちろん、この舞台の世界では、若い頃しかノクスになれないから、良さが解らずにノクスになってしまうんですけど、もし、ノクスからキュリオに変われる方法が見つかったら、年を取るとともに、やっぱりキュリオに戻りますというお年寄りが沢山出てくるのでしょう。人間とは、そういうものなんです。
ノクスの苦しみとキュリオの苦しみ、どちらも知る事になった主人公の2人は、どういう選択をするのか、ぜひ、舞台を観て、考えて欲しいです。主人公2人が、変異の哀しみを知ったのは、前田さんが演じる”結”の変異を見ることによって、理解するんです。この結という女性は、キュリオの汚さを知り、キュリオに留まりたくないと思いながらも、ノクスに行く勇気も無かったのですが、ある出来事により、ノクスに行ってみようという気持ちになります。彼女も、どういう選択をするのか、楽しんでくださいね。

主人公の綾野さんと成宮さんの対比が面白いと思いました。片方は、とても感情的で落ち着きが無く、まだまだ子供という感じ、もう一方は、冷静で、感情を出さない大人という感じでした。でも、2人とも、年齢は近いという設定なんですよ。この対比が、良く、表現されていたと思いました。そして”結”を演じる前田さんは、一人でパッと2つの種類の人種を、とても解りやすく演じていて、観ていても人が変わったようで、父親の悲しさが伝わってきました。良かったなぁ。でも、前田さんのお父さんが六平さんって、ちょっと違い過ぎないですかぁ~!(笑)
最後に一つだけ。ノクスとキュリオの種族分けをするために、ノクスの居住区が、舞台の奈落と呼ばれる場所に作ってあるのですが、地下で演じられる部分が、とても観にくかったです。前列の方には解りやすいかも知れませんが、後ろの方の席だと、前の人の頭に下の部分が隠れてしまうので、何をやっているのか、必死で動いて確認するしかありませんでした。これは、ちょっと辛かったな。
この舞台、面白かったです。私は、お勧めしたいと思います。話も良かったのですが、出演者も良い人が沢山出ていて、満足しました。綾野さん、「サイケデリック・ペイン」の時と全然違って、ちょっとビックリしました。もちろん、役の設定も全然違うんだけど、なんか、一皮剥けたって感じがして、感動でした。うーん、ステキでした。難しいと思うけど、まだ、チケットが手に入るようでしたら、観てみて下さいね。DVDになったら良いね。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S : スミマセン。芸能ニュース様から写真をお借りしました。もし、問題があるようでしたら、ご連絡下さい。直ぐに消去いたします。ご迷惑をかけて、申し訳ありません。
「太陽2068」 http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/14_taiyo.html
- 『サイケデリック・ペイン』 DVD/作者不明
- ¥価格不明
- Amazon.co.jp