映画『ディファイアンス』ヴィヴィアン佐藤評 | vivienne sato
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今年のアカデミー賞音楽賞にノミネートされ、新生007で好評のダニエル・クレイグが実在のナチス政権下のユダヤ人リーダーを演じている。第二次世界大戦時1941年、ナチス・ドイツのユダヤ人狩りはポーランドの田舎町にも迫っていた。両親を殺されたビエルスキ三兄弟は、ポーランドに隣接するベラルーシの森に身を隠し、ナチスの手から逃れてきた数々のユダヤ人を救い出し、終戦まで一大集落(1200名!)を築き上げる。ビエルスキ三兄弟の長男であるトゥビィア(クレイグ)は、リーダーとしてユダヤ人が自由に人間らしく暮らせる(人間らしく死ぬ)場所を築こうとする。この物語は実話であり、いままでほとんど語られる事なく歴史の中に埋もれていた。生き残ったユダヤ人子孫たちは今や数万人にも及び、彼らの証言によって徐々に明るみに出されてきた。


監督は『ラストサムライ』のエドワード・ズウィック。『ラストサムライ』でもアクションだけではなく、日本人の尊厳や威厳、誇りを描く事に長けていた。今回もたとえ迫害され、追い詰められていても、その民族の誇り・威厳を保ち生きていこうとする姿は心打たれる。またレジスタンスとしてのビエンスキ三兄弟を単にヒーローや英雄として描くだけではなく、ナチスに対して行ったビエンスキ兄弟の暴力、また殺害されるゲシュタポの家族も同時に描かれている。


『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』と並べられる作品といわれている。。。映画は娯楽でもあるが、埋もれてしまった事実を世に直接リアルに問うことが出来る大事な役割も持っている。しかし、ただそれだけでは興味はそそられず、「作り物」としていかに現代性を持って世に問えるか? が、大事である。ただナチ政権やユダヤ人の不屈な精神をそこに見るだけでは前者二作品とは変わらない。現在この作品が持つ意味とは? ダニエル・クレイグ演じるトゥビィアのカリスマ性と統治能力、そして内部から噴出する抗争の除去。。。  この1200名ほどの森の中の集落には裁判所や、刑務所、病院や学校もあったと言う。現代法治国家に住んでいた人々をいかに統治していくか。


その集落のモデルは当時のヨーロッパの中枢都市の構造と同じであり、そのモデルはローマなどポンペイの遺跡にも見られる。 そして歴史的に後ろから見れば大戦は4年で終結したが、彼らは一体いつまでその状態が続く事を想定していたのだろうか。  現在のパレスチナなど暫定自治を含め、政府や法律は「恒久的なモノ」として作り・守るのか、もしくは「今だけのモノ」として暫定的お約束的に共同幻想として信じていくものなのか。。。株や金融を含めほとんどの価値は変動制であり、永久的な価値は存在し難い。


日本でもアメリカでも政治家はどこまで人々を信じ込ませ、動かすことが出来るのか、、、その事を思う。


ほか役者は、『リトル・ダンサー』の可愛かった男子ジェイミー・ベルや、ティム・バートンの『不思議の国のアリス』(2010)主演のミア・ワシコウスカがこれから期待大。