七海見理：悪人

なぜ、殺したのか。
なぜ、愛したのか。

ひとつの殺人事件。引き裂かれた家族。誰が本当の“悪人”なのか？

吉田修一の同名ベストセラーの映画化。
映画公開前に開催された「第34回モントリオール世界映画祭」で深津絵里が最優秀女優賞を受賞した話題作。

長崎のさびれた漁村で生まれ育った土木作業員の祐一は、かつて出会い系サイトでメールのやり取りをした佐賀の紳士服量販店に勤める光代と直接会い惹かれあっていく二人。しかし、祐一には秘密があった。連日ニュースを賑わせている保険外交員殺人事件の犯人だった。祐一は光代に犯人であることを告白し自首しようとするが、光代に止められ二人は絶望的な逃避行へと向かう・・・

叶わぬ恋愛と悪人のオンパレード。この二つが描かれている。
祐一も光代も似た者同士。仕事と祖父母の世話に追われ、唯一の趣味は車という祐一。国道より外へ飛び出したことのない光代。鬱積が溜まり愛に飢えている二人だからこそ通じ合った心。しかし、祐一は殺人犯で二人には叶わぬ恋愛である。

そして悪人。人を殺したということは確かに悪人だろう。しかし、それ以外の悪人が次々と登場する。人を小馬鹿にしている裕福な大学生とその取り巻き、悪徳商法のオヤジ、他人のことなど御構い無しのマスコミ、祐一の母親・・・そして、殺された保険外交員の女性までも悪人である。北野武監督の「アウトレイジ」のコピーは「全員悪人」だったが、この映画こそ「全員悪人」である。

殺人犯美化ともとれるような感じなのは少し残念だが、殺害された家族と殺人犯側の家族の視点には胸が詰まる。
理不尽な世の中を考える重苦しいラブストーリーだった。

評価：★★★★

監督：李相日
原作：吉田修一「悪人」
出演：妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、樹木希林、柄本明、宮崎美子、松尾スズキ、光石研、余貴美子、塩見三省、井川比佐志、永山絢斗、中村絢香、韓英恵、山田キヌヲ・・・他
製作国：日本
配給：東宝

【悪人】
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評価・紹介No.：2010-173