Oさんは50歳代の男性。3人兄弟の3男として育ちました。長兄は父が始めた会社を継ぎました。取引先や従業員からの信頼も厚く有能な経営者と評価されています。次兄は弁理士の資格をとって特許事務所を開設して成功をおさめています。Oさんは一流大学の邦楽初に進学しました。優秀な兄たちに負けず学校時代の成績はよかったとのことです。兄弟の仲も良かったのですが、兄たちは友人が多く社交的であったのに対しOさんは一人遊びを好む傾向がありました。Jさんは法律家をめざし司法試験を受験することにしました。ある程度のところまではいくのですが合格までにはいたらないことが数年間続きました。両親や兄たちはは心配して進路を考えなおすように説得しましたがOさんは聞き入れず漫然と司法試験受験を続けていました。経済的援助はずっと受けていたのですが親兄弟との交流は少なくなっていました。ある時Oさんはいつも持ち歩いているバッグを失くしたことに気がつきました。そのバッグには保険証、通帳、印鑑など大事な品を全部入っていたそうです。その後のOさんがとった行動は不思議なものでした。兄弟に連絡することもなく絶食を続けました。近所の人が気づいた時には脱水状態で緊急入院しました。



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 Oさんは一見礼儀正しく常識のある中年男性に見えました。しかしかばんを失くした時に家族に援助を求めなかったこと、脱水状態になるまで絶食を続けたことに対しては当然のことのように考えていて、本人から納得の行く説明は聞くことができませんでした。臨機応変の対応をする能力にOさんは欠けていたようです。合格する見込みがないまま司法試験受験を続けたこともそのひとつでしょう。社会的には他人との関係が保てなかったため司法試験受験という形で身を守っていたのかもしれません。大切なバッグの紛失でそのパターンも破綻してしまいました。Oさんは恵まれた環境にいて社会との関わりを避けて生きることができていた、しかしもっと早い時期に障害に気がついていれば生き方を変えることは可能だったと思われます。