第四十五夜 最終章 最後に、絆を描く3つの「H」 | Young Volunteer Network(YVN)

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信州上田で楽しみながら活動する青少年の仲間たちのブログです。

そして私は、彼の語り描いた「人の輪」ではなく、坂口平流の「人の輪」を築きなおすために日記にも書いた大学の頃投げ出した福祉の勉強を通信教育で仕事をしながら再開しました。

当面の目標は、社会福祉士の資格を取得すること。

そして半人前の仕事を一人前にこなせるようになり、ひとりでも多くの利用者の方の地域での生活や、生きがいなど、夢の実現の一助となること。


Kさんは私が就職してすぐにグループホームへ移り、生活の場を地域へと移行しました。


いまは週に2.3回私の職場に出掛けてくるKさんに会います。


私を見て言う、Kさんの最近の口癖は「こんなに大きくなって」


Kさんの想いに応えられる人材に成長できたかはまだわかりません。


私は上田悠生寮で成長してきたといっても過言ではありません。


ボランティア活動へのきっかけは、色々なことの重なりだった。中学の頃のじゃんけん、福祉委員会、サマーチャレンジボランティア、そしてKさんのいれてくれた珈琲。そして彼がこよなく愛飲したコーヒー。



ボランティア活動を体験するにつれて、その活動の魅力を知り、YVCでの活動を展開しました。

私は「人の輪」を目指す仲間とともにヤングボランティアネットワークとして活動を再開したのです。


最近では小学生や中高生対象のボランティア体験講座などで、私の失敗談を交えてボランティア活動の持つ魅力についてお話させてもらう機会も増えてきました。


また業務として担当しているボランティアコーディネーターとして、福祉施設のボランティアコーディネーションのあり方や、福祉施設でのボランティア活動のよりよいあり方など講座も多く担当させていただくようになりました。


ボランティアと出会ってから18年という中では人生を変えるような貴重な出会いもありました。もちろん別れもです。


失敗や挫折を何回も何回も繰り返し、周囲に多大な迷惑をかけながら少しずつ歩んできたでこぼこだらけの道のり。



失敗は成功の素とよく言われますが、本当にそのとおりだと思います。


彼が体験させてくれた挫折。


挫折を味わうことで、自分の傲慢さやわがままな振る舞いに気付くことができました。


失敗を乗り越えて行く過程で仲間の大切さや、何も出来ないと思っていた自分にもできることを発見することがでたのです。

またどんな失敗をしてしまってもひとはやり直せる。


「始点は視点を変えること」、そんな可能性を見出すことも出来ました。

何より両親をはじめとした多くの方に支えられて生活していること。

上田悠生寮をはじめ彼や仲間と共にボランティア活動をとおして学んだことや得たものは「生きるための力」と表現できるぐらい非常に大きかったと感じるようになりました。


いま、多くの方と出会って得た、経験と知識という「味」をミックスさせたボランティア活動とその活動に関わる青少年の支援活動を続けています。



それは私にとっての人の和を織り成す、オリジナルブレンド。



いままで出会った方たちの温かさと、私の失敗や教訓という苦さがブレンドされ詰まっている味です。


このオリジナルブレンドの味は完成することは決してありません。


コーヒーの焙煎はその日の気温や湿気も影響します。だから完成したブレンドはないのです。


それと同じで私達は毎日同じリズムで生活が出来るわけではありません。

元気な朝もあれば、不安に陥る夜もある。

その日によって変わって行くことも当たり前のことなんです。

これからもたくさんの味を持った人々と関わりながら、新しい味を日々追求していきたいのです。それが私なりの人の輪を作って行くことだと思うからです。


まだ私が織り成す「人の輪」は小さいものでしかありません。


それに人生は決して楽しい事ばかりではありません。


でも私は胸を張って人々に伝える事ができます「全力で生きることはすごく楽しい」と、心の病と闘ったあの土をなめるような辛酸な日々も今に生きています。



努力は必ず実ることも分かりました。

前述しましたが、彼の死後、再スタートをするために私は通信教育で社会福祉士の資格取得を目指しました。


受験資格を得るためのレポートと面接授業。それ以降も努力は続けました。

彼の死と共になくした自信。


自信も専門性も知識も学もない私が続けたこと、仕事の日も休みの日もどんな日であろうと2時間机に向かい字を書くこと。勉強方法も彼がやっていた「覚えるには覚えたいことを自分の手で書くことだ」を守り、ノートをつくりました。ノートは20冊を越えました。


冊数の分の努力が実ったのです。そう努力は実るのです。はじめて挑んだ国家試験で桜の花が咲きました。恐る恐る合否通知の封書を空け、合格の二文字を見た瞬間。大きく手を突き上げていました。喜びの余り目の前にいた母親に抱きついたぐらいです。



彼が語っていた「ボランティアはひとの成長を演出する」これも本当だと実感しています。


そして祖母が疑問に思ったであろう「ボランティアって何者だい?」については、「人として当たり前のことを何気なくできているひとのことだ」と言えそうです。



コーヒーを通して出会った人たちが教えてくれたのは、ひとを大切にするという当たり前の事。


でもいま忙しく生活をする日々の生活の中で、ひとはその大切さを置き去りにしてしまっているように感じてなりません。



私は、多くのコーヒーと出会いました。


肌を通して知ったひとの温かさ、その隠し味は、そのひとたちのちょっとした気配りであり心配りでありました。


その温かさと苦さがひとを大切にすることを教えてくれました。



私が16年前に書いた活動理念「自分たちの力で見つけ、考え、行動する」。この理念に賛同し協力をしてくださった方の多さ。


その人々は、待っていないのです。社会の課題を人事にせず、自らアンテナを伸ばし発見するのです。気付く力を持っています。


気付いたら放り出すことはしません。考えるのです。何故それが課題となっているのか、解決には何が必要なのか。真剣に悩むのです。

そして一人ではなく周囲を巻き込みながら動き出すのです。

大きなことを言っているように思えます。しかし、理念のような行動をする人は、落ちているゴミを何気なく拾い、そっとゴミ箱へ片付ける。そんな細やかな心配りのできる人なんだと多くの出会いが物語っています。



私は何も知らずに16年も掲げた理念の旗を振り続けてきました。


その言葉に込められた意味を理解していた人たちと出会い、囲まれながら歩んできたからこそ今の自分があるのです。



わがままな迷惑ボランティアでしかなかった私が、いまこの仕事と青少年ボランティアの育成に関わることが出来ることに感謝しています。

そのきっかけをくれたKさんと、私を叱り続けてくれた親友である「彼」に感謝をしながら、今度は私が職場である悠生寮を訪ねてくれるボランティアの方や、体験に来る中高生に、そして私が参加するボランティア講座やボランティア活動で出会う新しい友人達に、このひとを大切にする事の大切さが凝縮されたオリジナルブレンドを淹れその味を共に楽しみたいと思います。



いつの日にか、ひとを大切にする事が、当たり前の日常の中に溢れている日が来るように願っています。



そして本当に最後に、彼と出会ってから、やっと私が理解することが出来た、ボランティア活動で大事な・・いや人生で大事な3つのHについてふれておきたいと思います。



私が中学生のころに参加した講座の冊子に活動の秘訣として「Hot Heart」と「Cool Head」と書いてありました。

それは、相手を大事に思う温かい心Hot Heart」。

そして自分にそれが出来るのか出来ないのか冷静に考える力「Cool Head」。

そのふたつでした。これは多くの講座で言われてきたことでした。ボランティア活動は気持ちや想いがなければ始まりません。自発性が大事にされる活動、だからこそ心が必要になります。そしてその活動が向き合う社会的な課題を乗り越える力は冷静な判断力がなければ私が失敗した車椅子バスケットや深夜バスの旅のような失敗をしてしまうでしょう。このふたつのHに私は自身の実体験を踏まえて、最後にもうひとつのHを書き加えたいと思います。



それは「Shake Hand」です。


Shake Hand」を直訳すれば「握手」です。


握手に至るにはいくつものプロセスがあるのです。挨拶にはじまり、相手の目線に合わせ、そして力をいれて握り合う。


お互いに手を差し伸べあい手を取り合って、これからともに築いていこうと約束をしあうそれが握手の行為だと思うのです。

私は多くの温かな手「Hand」によって守られ、導かれ、背中を押してもらい、今日まで歩むことができました。


Hot Heart」と「Cool Head」、温かい気持ちと考える力。

そのふたつをもっているのであれば、どうか一歩自ら踏み出して手を握ってください。


その手を待ち続けている人が必ずあなたのそばにいます。それが共感となり、仲間を築き、私たちの人生を豊かにする心の豊かさ「生きる力」へと大きな力をもって変わって行くのですから。



私の迷惑ボラ武勇伝「オリジナルブレンド」が、どこかで誰かの「Shake Hand」という一歩を歩みだす勇気に変わることを願っております。



平成21917日寄稿 坂口平


Young Volunteer Network
※写真平成21年9月撮影