まだ私が若い頃、ある女性患者が診察に来た。頭痛薬をくれという事だった。私が若いせいかその患者は不審な目で猜疑心の塊といった表情であった。以下はその時のやり取り
患者
「どんな頭痛薬でもいいけど、ピリン系はやめてね。私アレルギーあるから。」
私
「普段は何の頭痛薬を飲んでいるのですか?」
患者
「セデスGが1番効く。漢方薬は効かないから絶対いらない。ピリン系でなければ他のでも良い。」
私の心の中
「え?セデスGはピリン系だよ。でも説明しても信用しないだろうな!」
私
「そしたらポンタールという薬をお出ししておきますね。」
幸いポンタールは効果があったとの事であった。それ以後も時々来ては文句ばかり言って帰って行った。しばらく音沙汰なかったが花粉症のシーズンにまたやってきた。耳鼻科と内科とアレルギー科の三ヶ所に行ったが改善せず鼻水が垂れて詰まって仕事にならない。前の病院でステロイドを打ってくれと言ったが断られたのでここでステロイドを打ってくれとのことであった。こういうわがままな患者はトラブルのもとになるので、打てない旨説明してお帰りいただこうと思ったが、患者が何でもいいから薬出してくれと言って帰らない。そこで毛嫌いしている漢方薬を出すと言ったら帰るのではないかと考えて「漢方薬だったら出してもいいですよ。」と言ったら意外にもどうせ今まで効果がなかったから漢方薬でもいいから出してくれと言った。その頃の私は病名漢方医に近かったが、いろいろ考えて麻黄附子細辛湯証と診断して14日分処方した。すると3日後また来院。文句を言われるのかなと思ったら患者が「効いた!効いた!」と嬉々としていた。一言小言でも言ってやろうかと思っていたら、その患者が「先生若いけど、私が見込んだ先生や。私も先生みたいな先生に最期を看取ってほしいといつも思っていたんよ。」と言われた。私も単純だが、それを言われて今までのその患者に対するいやな感情が吹っ飛んで、いとおしくさえ思えてきた。きっと私の未熟さが患者との間に自然と壁を作っていたのだと思う。そしてこの麻黄附子細辛湯が私の漢方著効例第1号となった。
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