『旅の終わり・栗城さんのメッセージ』

11日間の旅も、いよいよ終わりを迎える。どうなるものかと思ったが、なんとか無一文で乗り切ることができた。

ツール・ド・無一文　最終ステージ（第8ステージ）

大阪～東京

こんなにお金について考える時間を持ったのは初めてだった。『お金がなくても旅をすることができる』ということがわかってしまい、「じゃあお金っていったい何なんだろう」と、来る日も来る日も考えていた。

結論は出ないが、思ったことを書いていこう。

「ポケットに財布がない」というのは、とても落ち着かないものだった。しかし、日が経つにつれて、解放感が生まれて気持ちよくなってきた。お金を忘れる、お金から自由になる、という状態だったのかもしれない。

お金を持つ普通の生活に戻っても、「無一文」の精神は大切なことだと思った。無一文の精神、それは、「必要のないものは買わない」＝「本当に必要なものだけを買う」ということだ。「普段だったら、ここで飲み物を買ってしまうな」と思うことが何度かあったが、もちろんお金がないので買うことはできない。しかし、時間が経ってみても、そこで飲み物を買う必要性を感じることはなかった。欲しい、と思ったけど、別に必要なかったんだなと思った。無一文になったおかげで、生きていく上で本当に必要なものは何かと、真剣に考えるようになった。

無一文。それは流れていく感覚。お金がないことによって、選択肢は減る。しかし、選択肢のない方が人生は楽なハズだとぼくは考える。ここが普通の人の感覚と少しズレるところかもしれない。ぼくは、自分で選択する必要のあることを、出来る限り少なくしたいと思っている。悩む時間がもったいないからだ。これについて話せばキリがないので、ぼくの好きな言葉を引用しよう。

「お前の、生きる道は、これまでもこれから先も、天によって完璧に決まっていて、それが故に、完全に自由だ。」　

漫画『バガボンド』より

この言葉は真理だと思う。ぼくも運命というものを信じる。だからこそ、選択肢の数は問題じゃない。むしろ、少ない方が生きやすい。それに、自分がやりたいことをやるために十分な選択肢は、ちゃんと手元にあるはずだ。

無一文でいると、どうしても人の助けを借りずには生きていけない。だから、一見「全く自由じゃない」ように思える。しかし、ぼくはわかった。自分自身が風のように漂い、何にも逆らわずに流されていくことで、完全な自由を手に入れることができると。ぼくは、望んでいた以上の旅ができた。それは、確実に「自然」と「流れ」がもたらしたもの。人間は自然に逆らってはいけない。「自然の流れ」は、人間の判断ごときで敵う相手じゃない。大きな流れに体をゆだねれば、もっと人生は楽になる。手に入れたいものは手に入るし、会いたい人に会える。望むままになる。

まだまだ考えたことはあるが、この辺でやめておく。多くのことを学んだ11日間だった。無一文でも生きていけると言ったものの、現地で出会った人たちがいなくてはこの旅は不可能だった。人との繋がりと、優しさに本当に感謝しています。日本は、本当に良い国です。

20時、各駅停車で10時間の長旅の末、東京に戻ってきた。五反田の改札を出ると、川口社長と敬子さんがハイタッチで出迎えてくれた。

旅のご褒美に連れて行ってくれたのは、高級なお寿司屋さん。ぼくが生まれて初めて「食べ物に感動した」ほど、おいしいお寿司だった。おいしい食べ物はたくさん食べてきたが、感動したのは初めてだった。