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嘉 「とても良い物件だということはわかりました。」
「でも、たぶん、この物件は僕の手に余るものと思います。」
「これを直すにはお金も時間もかかりそうだし、僕はすぐに自分のやりたいことをするための家が必要なんです・・・」
石川 「なるほど。たしかに、この物件はとても魅力的なんですが、今すぐに住めるような代物ではないですからね。」
「手直しして賃貸しても良し、売っても良し、(まあ私なら値が上がるまでずっと持っていると思いますが)
どちらにせよ、その前に少々物件に手を入れなければなりません。」
嘉の目的「好きな音楽を存分にやるための空き家を手に入れる」には合わない物件だったが、投資用としては今まで見てきた物件の中でも1番輝いて見えてきたので、しばらくの間、考え込んでしまった。
石川 「ここは目の前が線路で、駅も歩いてすぐそこですからね、間違いなく需要がありますよ。」
「ここがこの市で唯一区画整理が終わっていない場所なんです。」
「駐車場にしようにも、この土地までの通路は車が通れないほどの狭さですし、この物件以外の残りの3区画は更地だからもう どうにも利用できない。 この物件だけが唯一、建物としての利用価値が残っているんですよ。」
「そして区画整理が始まる前に残りの3区画も格安で手に入れられれば、先ほどは10倍の価値と言いましたがね、3区画分も 加えればそれ以上の価値が上がりますね。」
嘉 「たしかに、僕が今まで見てきた中でも一番良い物件と思います。」
「ただ、やはり僕の目的に合わないのです。なので、代わりにこの物件を必ず買ってくれると思う友達を紹介します。」
自分の目的には合わないとわかっていても、確かにいい物件だったので、この機会を逃すのも惜しい様に思われた。
そこで友達のラクヲ
に教えようと思った。彼は友達でもあるが不動産投資仲間で、しかもお互いまだ駆け出しだったから、ヤツはこの物件を絶対欲しがると思った。
嘉 「あ、ラクヲ? 今仕事中? スッゲーいい物件を見つけたんだよ! 仕事終わったら速攻で来てくれ!!」
ラクヲ 「ん? なんかしゃべり方に熱が入ってるな? わかった、終わったら行くよ。」
そして電話を切って、ラクヲと会う約束をした。
嘉 「石川さん、この物件、友達絶対買いますから、それまでこの物件の優先権を僕らのままキープしておいて頂けますか?」
石川 「ええ、わかりました。キープしておきます。」
石川さんは見た目も誠実そうだったが、性格も実に誠実そうだったので、そのあと嘉は安心して石川さんと別れ、ラクヲの帰りを待った。
[解説]
不動産の世界ではこのようなおかしな価格差の話がたまに見つかったります。
株式で10倍株を見つけるのはある意味で先見の明が必要ですが、昨日たまたま発生した株の下落(非効率的市場)は、
次の日にはすぐにそれを見つけた人々の手によって適正価値に戻されてしまいます。
しかし不動産の世界では、このような非効率的な市場が1年以上放置されている場合があります。
「そんなおいしい物件は石川さんが買わないのはおかしい」と思われるかもしれませんが、
その物件が万人にとってオイシイわけではありません。
たとえば僕にしてみれば、自分の目的に合わない物件は手に余るものでしかないですし、
不動産物件を既にたくさん持っている石川さんからしたら、古い中古一戸建て物件たった1件に労力・時間を使うより、マンションなど大型投資をした方が手っ取り早い方もいます。
しかし建築業界人とのコネを持っていたり、家の直し方のノウハウを知っている人にしてみれば、このような中古不動産物件が手に余るものに変わります。例えば友人でかつ不動産投資をしている友人のラクヲのように。
つづく