夏坂健 『フォアー! ゴルフ狂騒曲』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

還暦過ぎの文庫三昧

 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 2002年5月発行の新潮文庫。著者の作品は、講談社文庫や幻冬舎文庫など、他にもたくさん出版されているが、わが家には新潮文庫が残っているだけだった。これで同文庫収録の全3作を再読したことになり、さらに読みたい気もするのだが、当面、新たに本を購入することを控えたいと思っているので、多分、夏坂健の著作を手にするのは、これが最後となるだろう。

 今回は、ゴルフに関する諸々の起源を探索するというよりは、珍しいゲームの展開や、面白おかしい試合の数々を、古い文献を読み漁って紹介しようという試みがなされており、それは、ゴルフ場やグッズを語る以上に、人間そのものを語ることに繋がっていて、ゴルフ好きにとっての面白さはまた格別である。歴史に名を残す有名プロあるいはアマも登場するが、むしろ、ゴルファーとしては名もなき人々が、功なり名を遂げた他分野での業績を打っ遣ってまでゴルフへの情熱・熱狂を示したり、ルールに謹厳で真摯なプレーぶりを体現したり、ちょっとした勘違いが大変な悲喜劇を生んだりして、読者をこのゲームの奥深さへと誘ってくれる。そこには、ちょっぴりおかしく、ちょっぴり感動的な秘話が満載であり、読物としての価値も高いと思う。

 例えば、『開闢以来の大事件』。我々はよく、「死んでもボールから目を離すな!」と教えられるが、それがゴルフにおいて本当に正しいのかどうか、疑問に思ったアマチュアの発言から大論争となり、ついには実証実験まで進んだという事例が語られている。プロやシングル級のアマたちは、必ずしもボールを凝視してスィングしているわけでなないらしいのだ。もちろんこれは、スィング軌道が安定しているプレーヤーの話であって、自分のようなヘボなゴルフ好きに当て嵌まることではないのだが、それにしても、「ボールを見てりゃ、いやでもヘッドアップになる。」などと書いてあると、ついニヤリとしてしまう。

 著者は、ゴルファーが一人前と呼ばれるようになるには、18ホールのうち平均6ホールでパーが取れるようになることが必要だと考えていたようだ。となると、自分などはまだまだ半人前である。と言って、この本に出てくる人々のように練習に精を出す意欲もなく、健康管理と言い訳してかなり軟弱なプレーを続けているのだから、著者から見れば、唾棄すべき部類のゴルフ好きなのだろう。ただ、それでもゴルフは楽しい。レベルが上がれば、もっと上質の楽しさを満喫できるであろうこともわかるし、だから上達したいとも思うのだが、ここでまた、「練習はいやだなー」と、堂々巡りに陥ってしまうのだ。

 わがホームコースは雪に弱く、せっかくの休日続きにもかかわらず、今年はまだプレーできていない。この本を読み終えて、自分も青空の下でフェアウェイを闊歩する姿が思い浮かぶ。一日も早くゴルフをしたいものだ。

  2015年1月12日  読了