宮城谷昌光 『三国志 第三巻』 (文春文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 2009年10月発行の文春文庫。昨年10月に第一巻と第二巻が発行され、一年ぶりに第三巻と第四巻が文庫化されたというわけだ。帯の予告を見ると、続巻はさらに一年後となっている。雑誌を読まないので知らずにいたが、この作品は現在もなお「文藝春秋」に連載中であるらしい。それらが単行本となり、さらにその後の文庫化を待つとなると、いつ完結に辿り着けるのであろうか? 気が遠くなってくる。

 中国の歴史物については、井上靖の数点と、海音寺潮五郎の『孫子』くらいしか読んだことがないので、この『三国志』についても、予備知識はゼロに等しい。加えて、記憶力の減退が著しく、一年前に読んだ2冊の内容をほとんど忘れてしまっている。このブログは、忘れたことを思い出すためのものでもあり、自分の記事を読み返してはみたけれど、膨大な人物が登場するこの物語の一端が残されているだけで、心許ない限りだ。したがって、物語の世界に入り込むのに時間を要してしまった。

 第二巻では、宦官政治が宮中を覆い、悪政が蔓延する様子が描かれていた。各地で反乱が起き、軍隊が派遣されることになる。反乱を一時的に押さえても、根本の原因が宮中にあるのだから、これは果てしがない。 

 霊帝の突然の崩御を機会として、宦官の一掃に立ち上がったのが、何進である。そして、何進が倒れた後、軍隊を引き連れてきた董卓が宮中を牛耳ることになる。彼は少帝を廃し、献帝を立てて、政治を私物化してしまうのだ。何進とともに立った袁紹と袁術は地方へ逃れ、それぞれが反目しつつも、董卓打倒の機会を窺うことになる。董卓は彼らの攻撃を交すために、献帝を百官とともに長安へ移し、洛陽を焼き払ってしまった。

 袁紹は董卓を攻撃するために各地から将兵を集めるが、動こうとはしなかった。見かねた曹操は、単独で董卓軍に戦いを挑むが、惨敗してしまう。しかし、この敗戦が、一方で曹操の名を高めたという一面もあるのだ。曹操は再起を期して、力を蓄えることに専念することになる。

 董卓の軍に戦いを挑み、初めて勝利したのは、孫堅が率いる軍であった。そして、彼の功名は、計算高い孫術に横取りされてしまう。一方、後の英雄となる劉備は、名将・公孫瓉のもとで反乱軍である黄巾軍と戦い、初めて快勝する。

 要するに、この第三巻では、各地で戦いはあるものの、皇帝を取り込んだ董卓軍と、袁紹・袁術がそれぞれ率いるグループとの、三すくみの状態が描かれている、と総括しても良いのではないだろうか? 皇帝は董卓の圧力に怯え、その暮らしさえ逼迫しているのだが、董卓軍は強大で、手出しができない実情なのである。袁紹などは、新たな皇帝を立てようと画策しているし、袁術に至っては、自らが皇帝であるかのような振舞いを見せている。曹操や劉備にとっては、いまはまだ雌伏の季節なのだ。 

 群像劇であり、策謀と戦闘が次々と描かれ、それなりに面白さも感じるけれど、血沸き肉躍るというほどには、物語世界に没頭できないでいる。地理もわからず、人名も頭に入り辛い点が、余計に厄介だ。だが、乗りかけた船、何とか最後まで読み継ぐ所存である。

  2009年11月1日  読了