小学館文庫の4月新刊。同文庫から隔月刊行されている「阿佐田哲也コレクション」の一冊で、2月に読んだ『三〇〇分一本勝負』の続編である。
東一局から南四局までの8編からなる連作小説という構成は前作と同じであり、登場人物もレギュラー陣は概ね前作を踏襲しているのだが、どこかトーンに狂いが生じているような気がする。読みながら、何故だろうと考えていて、気付くことがあった。『三〇〇分一本勝負』は、ピンクゾーンの一角のマンションに設けた専用クラブに集まるメンバーの集団劇であったのに対し、この『ゴールドラッシュ』はオレンプの物語になってしまっているのだ。したがって、集団で丁々発止とやり合う麻雀のシーンはかなり減って、同じギャンブル小説とは言え、勝負する種目も様変わりしているのだ。この作品では、牌活字が並ぶページが前作より相当に減少してしまっているのである。
阿佐田哲也イコール麻雀小説を期待しているわけではないし、前作でもオレンプは主役であったに違いないけれど、前作のオレンプはクラブのマネージャー役をソツなくこなすところに前歴の重みが滲んで、集まるメンバーが巻き起こすドタバタを説得・鎮撫し得る貫禄にもなっていたはずなのだ。ところが、この作品では、オレンプ自らがドタバタ劇の主役を演じてしまうことが多い。そのためにオレンプのキャラクターが軽くなってしまったのが残念であるし、ストーリーにも強引さが加わってしまったように思うのだ。
東一局『夜は楽しい悪の園』と、続く二局『ここが地獄の一丁目』は、オレンプの娘という触れ込みで表れたジーンに翻弄される話だ。だが、ジーンの言動は常人の想像を超えていて、現実離れしているように思う。また、東三局『魔人ドラキラー』は、谷中の墓地から起き出てきた男との麻雀勝負が描かれ、まるで怪談である。
南一局『博徒出陣』は、オレンプが支配人をしているソープのオーナーママであるコニイが、折からのエイズ騒ぎに嫌気がさして、ハワイで休養しようというところへ、専用クラブのメンバーが揃って押しかけ、コニイの財産を巻上げようとする話だ。これも話としては面白いが、それぞれ職業を持つメンバーであることを思えば、大挙してハワイまで出陣するのはあまりに不自然な気がする。また、最後の『親に孝行子に不孝』は、競輪選手を育てて八百長を仕組もうというストーリーで、年月を要する遠大な計画はそもそもこの連作小説には不似合いである。
というわけで、阿佐田作品としては辛口な感想を述べてしまったが、これはあくまで『三〇〇分一本勝負』との比較の上でのことである。語りの巧みな著者のことだから、それなりの面白さは随所にあることも付け加えておきたいと思う。ただ、惜しむらくは、この作品を執筆した晩年のこの時期、著者の意識は本名で発表する純文学系の作品に傾注していて、こうしたエンタティメント作品にまで全力で取組む余裕はなかったのではないか? 我々読者としては、阿佐田哲也の名もまた不朽であると確信しているのだけれど。
2008年4月29日 読了