嚥下スクリーニング | 横浜嚥下研究会

横浜嚥下研究会

私たちは横浜、湘南、横須賀の医師、歯科医師、コメディカルの有志で作られた会です。嚥下障害の臨床を追求し、より質の高い臨床を患者さんに提供出来ることを目指しています。

ベッドサイドで当たり前に使われている嚥下スクリーニング。私自身の勉強のために一般的なものを検索してみました。

尚、本ページに記載されているものに対して当会は一切の利害関係がないことを誓います


【感度と特異度とスクリーニング】
感度はその見たいものの拾い上げやすさを示し、高ければ高いほど漏れが少なくなる。特異度は拾い上げたものの中に本物の当たりがどれだけあるかを示し、高ければ高いほど当たりを引く可能性が高くなる。理想は感度、特異度共に100%だが、そのようなものは存在しない。一般的には、感度が高いと鑑別診断(rule out)に有用であり、特異度が高いと確定診断に有用である。
・高感度、低特異度:偽陽性が出やすい
・低感度、高特異度:偽陰性が出やすい

スクリーニングは感度が高いものを行って、なるだけ拾い上げ易さをファーストチョイスに持ってくる。つまり最初は特異度を犠牲にするしかない。そこで拾い上げた症例に対して特異度の高いスクリーニングを行うのが現実的だろう。ただ、高感度、高特異度だからといって一つだけのスクリーニングでモノを話すのは危険といえる。嚥下臨床においては複数のスクリーニングをかけるのが最早常識となっている。


【嚥下スクリーニング】
①反復唾液嚥下テスト
RSST:Repetitive Saliva Swallowing Test
手続き)
・甲状軟骨を触知した状態で30秒間に何回空嚥下ができるかを測定
結果の解釈)
・空嚥下3回未満を陽性と判断
根拠)
・健常な高齢者たちが3回の空嚥下を行うのにかかる時間が11.4±6.4秒だった。
・摂食嚥下障害を訴える131例においてVFとRSSTを検討し、VF中の誤嚥との相関(+)
感度98%  特異度66%


②水飲みテスト
30ccWST:30cc Water Swallowing Test
手続き)
・座位にてコップに注いだ水30ccを自分のペースで飲んでもらう
結果の解釈)
・プロフィール1-5の判定基準を用いる
→mindsでのど→嚥下障害ガイドライン耳鼻科
根拠)
・嚥下障害を訴えるCVA患者61例をWST30ccとVFで検討したstudy。VFでの誤嚥と水飲み30ccにおける声の変化、ムセには相関があった。
→mindsでのど→嚥下障害ガイドライン耳鼻科
感度72%  特異度67%


③改訂水飲みテスト
MWST:Modified Water Swallowing Test
手続き)
・冷水3ccを口腔前庭へ注ぎ嚥下を命じる。最大3施行し悪い嚥下を評価とする。
結果の解釈)
・判定基準1-5を用いる(mindsプロフィール参照)
根拠)
・嚥下障害63例に対し、MWST、FT、嚥下前後のバリウムx-pを用い、VEによる検討をしたstudy。
誤嚥との相関(+)
感度90%  特異度71%


④100cc水飲みテスト
100ccWST:100cc Water Swallowing Test
手続き)
・100ccの水をコップに注ぎ、それを合図と共に飲水させる。時間の計測とムセがポイント。ムセたら中止とする。
結果の解釈)
・嚥下速度10cc/秒未満を異常と判定
根拠)
・嚥下障害59例に100ccの飲水をさせ、VFで検討したstudy。飲水速度の低下、ムセにおいてVFとの相関(+)だった。
感度85.5%  特異度91.7%


-1 聖隷式質問紙法
手続き)
・聖隷式質問紙(15項目)への回答
結果の解釈)
・Aが一つでもあると嚥下障害ありor疑う
根拠)
・CVA195例と健常者170例へ同質問紙を実施。VF等による嚥下障害の有無と質問紙の回答を比較検討。Aの回答があるものを嚥下障害ありとすると、嚥下障害の検出率は感度92%、特異度90.1%であった。
引用文献:大熊るり先生
『摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発』日摂嚥下リハ学会誌2002.vol.6
感度92% 特異度90.1%


⑤-2 EAT10日本語版
手続き)
・EAT10質問紙(10項目)への回答
結果の解釈)
・5段階評価(0点問題なし、4点ひどく問題)
・合計点数3点以上で異常とする
根拠)
・日本語版EAT10を用い、才藤の嚥下重症度分類(DSS)によって誤嚥との関連を検討した複合施設研究。摂食嚥下に問題がある、疑う高齢者393人に対しEAT10を実施し、評価のとれた237人はDSSと負の相関を認めた。EAT10で3点以上の場合、誤嚥との感度75.8%、特異度74.9%であった。
感度75.8%  特異度74.9%


⑥パルスオキシメータを使った嚥下評価 
手続き)
・パルスオキシメーターをつけたまま経口摂取を行う
結果の解釈)
・経口摂取中にSat90%以下で誤嚥とみなす
・Satが1分間あたり3%低下し、連続で3%低下がみられた場合(99%→96%→93%)は誤嚥とみなす
根拠)
脳卒中症例においてパルスオキシメーターを用い誤嚥との関連を検討したスタディーはいくつか報告されているが、未だ有効か有効ではないかは明らかではない
・有効と考えられたスタディー(Collins&Bakheit1997)
CVA患者54症例に対しパルスオキシメーターを用いたVFとの検討。誤嚥との関連は感度73%、特異度87%であった。パルスオキシメーターによる評価は有効であると結論づけた。
・有効ではないと考えられたスタディー
(Wang2005)
60症例の嚥下障害患者(うちCVA27例)に対しパルスオキシメーターを用いたVFとの検討。誤嚥との関連は感度39.1%、特異度59.4%でありパルスオキシメーターによる評価は有効ではないと結論づけた。
誤嚥との一致率は感度39%-73%、特異度59%-87%


⑦咽頭反射の検出 
手続き)
・咽頭後壁をさわる
結果の解釈)
・咽頭反射(咽頭絞扼反射あり)を陽性、やや減弱(しかめ面あり)、減弱(わずかにしかめ面あり)、消失(無反応)の4段階で判定する
根拠)
・嚥下障害症例に咽頭反射を4段階評価した。その上でVFを67例に実施し、誤嚥との関連を検討したスタディー。VF67例中の咽頭反射減弱、消失は79%を占めていた。水飲みテスト陽性かつ咽頭反射が消失しているとVF上誤嚥との一致率は73%であった。
水飲みテスト陽性かつ咽頭反射消失の場合は、73%の誤嚥一致率


.-1 咳テスト
CT:Cough test
手続き)
・クエン酸1%溶液を作り、オムロンの簡易ネブライザーを用いて1分間吸入させ、咳の回数をカウントする。
結果の解釈)
・咳が4回以下/1分間でsilent aspiration疑い
根拠)
・160人の嚥下障害疑い症例に対して咳テストを実施。咳が4回以下の症例をsilent aspirationとして判断。実際にVF/VEで検討した。結果としてsilent aspirationとの一致率は感度86%特異度71%であった。
感度86%  特異度71%


⑧-2 シンプル咳テスト
手続き)
・1%クエン酸を吸入させ、咳が何秒で出現するかを計測する
結果の解釈)
・吸入後30秒をカットオフにする
・30秒以内は正常、30秒以上はsilent aspirationを疑う
根拠)
・日本国内の歯科大でとられた単一施設研究
・嚥下に問題を訴えた53症例に対してシンプル咳テストとVEでsilent aspirationとの一致率を検討したスタディー。クエン酸吸入後咳出現まで30秒をカットオフとした場合、silent aspirationとの一致率は感度92%特異度94%であった。通常の1分間で行うとsilent aspirationとの一致率は感度81%特異度65%という結果になった。30秒をカットオフとした本手順はsilent aspirationの検出に有効だという結論になった。
感度92%   特異度94%


⑨嚥下誘発試験
S-spt:Simple swallowing provocation test
手続き)
・alertであること。臥位にし、カテーテル5Frを14cmほど挿入。中咽頭に先端を合わせ、呼気終末に同調させ0.4ccの水を注入する。同手順で2ccも行う。患者へは特に指示を入れる必要はない。
検者はストップウォッチで注水した瞬間から嚥下反射までの時間を計測する。
結果の解釈)
・3秒以内の嚥下反射は正常範囲
根拠)
・東大病院にて40症例にs-sptを実施。そのうち18例が誤嚥性肺炎だった。誤嚥性肺炎群は18例中17例が異常値を示し、非誤嚥性肺炎群は22例中19例で0.4cc正常範囲であった。WSTとも比較し、データはほぼ一致。誤嚥性肺炎の診断との一致率は感度94.4%特異度86.4%であった。
感度94.4%  特異度86.4%


食物テスト
FT:Food Test
手続き)
・ティースプーンで小さじ4g程度のプリンやゼリー、もしくはお粥を食べてもらう
結果の解釈)
・判定基準5段階。1-3段階は嚥下障害ありもしくは疑い
根拠)
・CVA患者701名へRSST、MWSTを実施した結果、異常もしくは臨床で食事中のムセのみられた症例をリストアップ。そのうちVFが可能であった155例に対し、VF場面で再度MWSTとFTを用いたstudy。MWSTに比べFTは誤嚥が少なかった。
ゼリーにおける誤嚥の感度80%、特異度41.3%、
全粥における誤嚥の感度83.3%、特異度25.5%であった。
誤嚥との一致率は感度80-83%、特異度25%-41%


11.着色水テスト
MEBDT:Modified Evans Blue Dye Test
手続き)
・気切症例に青または緑で着色した、水分ないし食物を少量摂取させる
結果の解釈)
・気切孔や周囲より喀出された分泌物に染めた色が検出される
・カニューレ内の吸引、カフ上吸引で染めた色が検出される
根拠)
・単一施設研究
・気切ありの頭頸部ガン30症例に着色した少量の水分orトロミor食物を摂取させた直後に気切吸引で着色から誤嚥の有無を判定。その判定とVEとの比較をしたstudy。結果、着色テストはVE同様誤嚥の検出に有効であった。気切ありの頭頸部ガン症例においては誤嚥との一致率は感度95.2%、特異度100%となった。

感度95.2%  特異度100%


12.嚥下前後のレントゲン撮影
swxp:pre-and post swallowing x-p
手続き)
・食前の側面単純x-p撮影をする
・50%バリウム4ccを嚥下させ、1分後に撮影
結果の解釈)
・食前のx-pと比較し、誤嚥、喉頭侵入、咽頭残留を同定する
・1-5の5段階評価(1.誤嚥中等度以上or  silent aspiration  or  嚥下運動なし、5.正常)
根拠)
・嚥下障害が疑われた210例を対象にVFを実施した。VF所見を基準とし、嚥下前・後2枚の口腔、頚部単純x-pを比較検討した。その結果、誤嚥との一致率は高かった。水分誤嚥との感度84.2%、特異度94%、誤診率9.5%であり、本スクリーニングは有用であると思われた。

感度84.2%  特異度94%


13.非VF系摂食・嚥下障害評価フローチャート
手続き)
・前提条件の要確認
・フローチャートに従う
結果の解釈)
・フローチャートにより、直接訓練の可否やVF必要性の有無が明確となる
根拠)
・何らかの摂食嚥下の問題を訴えた63名にVFと臨床検査を実施し、本フローチャートを用いることで直接訓練の開始をVFで検討したstudy。
本フローチャートによる直接訓練開始についての感度100%、特異度93%であった。
・MWST、FTの合計点8点をカットオフとすると直接訓練開始の感度90%、特異度56%
・MWST、FT、swxpの合計点12点をカットオフとすると、直接訓練開始の感度90%、特異度71%であった

引用:戸原玄先生/videofluorographyを用いない摂食・嚥下評価フローチャート
感度100%  特異度93%


14.頚部聴診
手続き)
・聴診器を頚部にあて呼吸音、嚥下音を聴く
結果の解釈)
・呼吸音、嚥下音によって、嚥下障害の鑑別、嚥下動態の推測が出来る
根拠)
・単一施設研究
・VFと嚥下音記録が出来た頭頸部腫瘍44名のデータに対し、検査者6名(歯科医4名、ST2名)の聴覚印象とVF結果を検討したstudy。嚥下障害の鑑別については検査者間で感度83.5%であった。誤嚥については、ムセありだと感度89.6%、ムセなしだと感度34.8%という結果になった。

嚥下障害の鑑別における感度83.5%