しばらく間があいてしまいましたが、前回取りあげたシベリウス作曲のピアノの小品『樅の木』は詩情が感じられるとても素敵な曲でしたね。

 私が知っている決して数多くないシベリウスの作品からはいずれも詩情といおうか景色といおうか‥何か音楽にとどまらないイメージが浮かんできます。

 北の果てフィンランドという土地柄から生まれてくるのかもしれませんし、また、シベリウスが触発されたというフィンランドの伝承や神話が背景に漂っているのかもしれません。何か荒涼としてそれでいて神々しい雰囲気があります。

 その中でもシベリウス唯一の『ヴァイオリン協奏曲』は私のお気に入りです。フィヨルド、白夜、果てしなく広がるような針葉樹の森…そういった風景が目の前に浮かんできます(妄想です(笑)。フィンランドに行ったことはありませんから!)。峻厳な自然の佇まい‥静けさを湛えた美しさ‥月の光のような、白く冷たい光‥。

 実は初めてこの曲を聴いたとき、目の前にぱっと浮かび上がったのは東山魁夷画伯の『白夜光』という絵でした。

 それは決して写実的とはいえず、白みがかった光(白夜なので太陽の光です)に輝く、果てしなく続くように思われる森に包まれた湖を描いたごくシンプルな(地味な‥と置き換えても可)絵ながら、なぜかとても心惹かれ、絵の前で思わず足を止め見入ってしまう一枚なのです。まぁ、151.0×222.5というサイズはド迫力なのですが‥ね(笑)。

 音楽と絵がここまで繋がるというのはそうめったにないことですが、これを体験すると、まるで自分がそこに旅して実際にその風景を見たかのような錯覚にとらわれるから不思議です。果して実際にそこへ行ってこの目で見たとしても、ここまで印象に残る体験をするのかどうか…。

 東山魁夷画伯の絵には心象風景が描かれている‥といつも感じます。実際の風景の写生を基に絵は描かれているのですが、それは単に景色を書き写した風景画ではなく、ある種の異次元‥無意識空間に漂う原風景のような雰囲気があります。永遠の風景‥とでも言いましょうか。

 考えてみると音楽には視覚的な要素は一切ありませんから、そこに風景を見るというのもおかしな話です。

 ですから、この二者を通して心で見ている風景というのはかなり特別な「あの世の風景」なのかもしれません。某哲学者が言うところの「イデア」のような…。

                                    Buona Fortuna!

ジャン・シベリウス作曲 『ヴァイオリン協奏曲』   
サラ・チャンのヴァイオリンです。この演奏の第1楽章は特に好きです。ドラマティック~!
https://www.youtube.com/watch?v=gpS_u5RvMpM

東山魁夷画 『白夜光』    
実物をご覧になりたい方は「東京国立近代美術館」へお運びください。
http://blog-imgs-47.fc2.com/b/l/u/blueasura/201112161826587ee.jpg