約束の場所はフュージョン料理の割烹だった。個室に案内されると藤星羅は既に席に着き.私が来るのを待っていた。彼女は立ち上がると,手を差し伸べてきた。そして握手を交わすと、
「今日はありがとうございます。でも予想通りですわ。本当,美脚の持主でいらっしゃるわ。」
実はアポの連絡を取った際,是非ショートパンツの装いで,といわれていた。勿論彼女も同様にしていた。プロレスをしているためか少々あざはあったが,薄らとしたピンクの肌がティアードの黒のショーパンに映えていた。
「素敵だわ。いいわね,清楚で。」
 私はプリーツショーパンでその色は無難にもベージュにした。でもどうしてこの様なこだわりを抱くのか,正直その意図は計りかねたのは確かだった。
料理は会席の11品のコースで,その美味に舌鼓を打った。彼女はその合間に,ミニコンサートで“魔弾の射手”を“マダンノイシュ”と呼んでしまったとの失敗談などを織り交ぜつつ,二人はオペラ談義に興じた。
そうこうしているうちにデザートの水菓子が運ばれてきた。それを機に本題に入ろうとバッグから,自身で立案したディナーショーの企画書を取り出した。
「御免なさい。コピーを取らなかったもので。一緒にご覧下さいませ。」と,彼女は私の隣に椅子を動かした。ただ気になったのは彼女の腿が私のそれに密着した事だ。私が椅子をひき離れようとしたが,彼女はあたかもそれを妨げようとせんばかりに私の腰に手を回した。素足の腿が触れ合う感触が何か艶めかしかった。
「これが企画書よ。」
そこには“魅惑の格闘オペラ”という題と共に“アリアとプロレスの競艶”というコンセプトが記載されていた。
「女性の特権だと思いません。闘っても美しいというのは。貴方と競うのはプロレスではなく,女の美しさ。」
「女の美しさ?」
「今回の企画は貴方と格闘技だけでなく,美しさでも競い合うものにしたいの。」