【小説:羅山】秀頼対面 | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

【小説:羅山】秀頼対面

 後陽成天皇の第三皇子、政仁親王が帝に即
位すると家康は武家の守るべき法令三ヵ条を
定め諸大名に誓わせることを考えていた。
 この法令三ヵ条は道春が起草したもので、
征夷大将軍である徳川の命令に従い、法度に
叛いた者をかくまうことを禁止し、謀反を企
てる者を抱えることを禁止した。
 この時、法令三ヵ条に対する誓書の提出を
促したのは主に西の諸大名で、豊臣家に味方
することをけん制する狙いが誰の目にも明ら
かだった。これを豊臣秀頼に事前に伝わるよ
うにした。そして秀頼に上洛し家康と会うこ
とを命令した。
 秀頼は若い帝の後見人のようになった家康
に叛くことはできず、二条城で会うことになっ
た。
 これより前の慶長八年(一六〇三年)に秀
頼は徳川秀忠の娘、千と婚姻していたため祖
父に会うという気安さがあった。しかしこれ
にはいまだに残る豊臣恩顧の諸大名が神経を
とがらせ加藤清正や浅野幸長らが秀頼の警護
にあたった。
 二条城に現れた秀頼は十九歳の凛々しい若
者となり、家康は複雑な思いだった。
「秀頼様、やっとお会いできましたな」
「大御所様、その様をつけるのはおやめくだ
さい。大御所様にはご健康そうでなりよりで
す」
「そ、そうか。秀頼殿も立派になられた。と
ころで千はどうじゃ。元気にしておるか」
「はい。よき妻をめとり、秀頼は幸せ者にご
ざいます」
「おお、そうか。これからも仲ようの。何か
困ったことがあればなんなりと遠慮せず申さ
れよ」
「ははっ。ありがたきお言葉。これからも父
上様を見習い、仲むつまじく暮らしていきた
いと思います」
「父上とな。それは…」
「上様にございます」
「おお、そうかそうか。良い心がけじゃ。な、
これも何かの縁じゃ。以前、太閤様とわしは
刃を交えたこともあったが、天下統一という
夢で結ばれてそれを果たすことができた。今
度は秀頼殿と秀忠が天下泰平という夢で結ば
れて末永く続くように精進してほしいと思う
ぞ」
「ははっ。この秀頼、若輩者ではございます
が、上様の手足となり、犬馬の労も惜しみま
せん」
「よくぞ申された。これでわしも憂いを残す
ことなく余生を過ごせる。このとおり礼を言
う」
 家康は深々と頭を下げた。
「大御所様、どうか末永くご健勝で、この秀
頼を見守ってください」
 秀頼はそれよりも深く平伏した。
 こうして家康と秀頼の対面は何事もなく終
わり、豊臣恩顧の諸大名もほっと一安心した。