【小早川秀秋幻記】其の38
関ヶ原の合戦後、秀秋らの城攻めで半壊し
た伏見城は復旧し、そこに家康は移っていた。
報告を聞いた家康は驚きをとおりこして恐
怖を感じた。
秀秋の戦いでの能力は身をもって体験した
が、まさか国を統治する能力まで優れている
とは思ってもみなかった。そして、真っ先に
岡山城に手をつけ防備を固めたことは、自分
や跡を継ぐ秀忠が天下を支配するうえで最大
の障害になることは容易に想像できた。
秀秋は豊臣家との親類関係もあり、将来、
豊臣秀頼と手を組み、豊臣政権再興に担ぎ出
されるかもしれない。すぐにでも討伐したい
がしかし、秀秋は戦功をあげているので、お
おぴらに殺しては家康にまだ内心から従って
いない諸大名の忠節心が得られなくなる。
そもそも秀秋と戦をすれば多大の損害は免
れない。
いずれ秀頼と戦うことも考えて、戦力を使
わず、暗殺することを企てた。
家康は書物を見ながら、独り言をつぶやい
た。
「秀秋を備前と美作に国替えして間もないか
ら領民は誰も秀秋の素性を知る者はおらん。
秀秋は西軍の裏切り者とふれまわり、まずは
領民を離反させよ。秀秋の家臣、稲葉正成、
平岡頼勝はわしが手なづけた。城内に入り、
毒を盛れ」
つづく