【小早川秀秋幻記】其の36 | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

【小早川秀秋幻記】其の36

皆、一瞬にして酔いが醒め身構えた。

恐怖で顔が引きつる家康。

(秀秋が何を…)

秀秋は騎馬隊を停め、馬から降りて、ひと

り家康にゆっくりと近づいて跪いた。

「家康殿、まずは合戦の大勝利、おめでとう

ございます。しかしながら、未だ三成が逃亡

して行方が知れず、その追討と三成の居城、

佐和山城攻めの先鋒をこの秀秋にお申しつけ

ください」

家康は合戦に遅刻した秀忠や諸大名の気の

緩みとは対照的な秀秋のそつのない行動に涙

を流して感激した。

「秀秋殿、よくぞ申された。よろしく頼む」

しかし心には不安が渦巻いていた。

(徳川家はいずれ、こいつに滅ぼされる)

秀秋は一礼して立つとすばやく騎乗し、馬

を走らせた。それに騎馬隊も凄然とつき従い

去って行った。

あ然と見つめるしかない諸大名。

家康の目が企みの目に変わった。

(あれが我が子ならばのぉ。ほしいことよ。

災いの芽は摘まねばなるまい)

 

 佐和山城に三成は近づくこともできず逃亡

を続け、その留守を二千数百人の兵が死を覚

悟して篭(ろう)城していた。

 秀秋は朽木元綱、脇坂安治などの部隊と共

に城壁に迫った。しかし、篭城兵の防戦に小

早川隊には死傷者が続出した。
                 つづく