【小早川秀秋幻記】其の35
家康はお祭り騒ぎで気が緩んだ諸大名の姿
を見てため息をついた。そしてよく見ると秀
秋の姿がそこにはなかった。
(そういえば、秀秋はまだ挨拶にも来とらん
な)
家康は家臣を呼んで秀秋を探しに行かせた。
それと入れ替わるように別の家臣が来て、家
康の下に跪いて言った。
「秀忠様がご到着なさいました」
家康が今、一番聞きたくない名だった。
「わしは会わん」
家康の怒りを感じた家臣は一礼して、そっ
とその場を退いた。
家康は怒りと情けなさに地団駄を踏んだ。
しばらくすると諸大名がざわつき始めた。
怒りが少し静まりかけた家康の耳に、諸大
名のざわめきが気になり、皆が顔を向けてい
る方を見て、瞬間に表情が凍りついた。
「何じゃ、あれは?」
それは騎馬隊が整然と列を連ねて近づいて
くる様子だった。その数、三百騎。
騎馬隊の先頭には鎧を身にまとった秀秋が
いた。
つづく