【小早川秀秋幻記】其の30 | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

【小早川秀秋幻記】其の30

秀秋は兵卒の緊張を解きほぐすように静か

に話し始めた。

「いつか話した桃源郷は夢幻ではない。親兄

弟、女房子らが生きたいように生き、飢える

ことのない都を皆と一緒に築き、われらを縛

るものから解き放つ。そのためにこの身を捨

てて戦う」

秀秋は徐々に強い口調になっていった。

「われらは東軍に加勢し、大谷を正面から討

つ。だたし大谷の側にいる赤座、小川、朽木、

脇坂は敵ではない。この四隊の前に大谷を誘

い出し餌食にする。われらは餌のごとくうろ

たえ逃げまわればいい。時が来るまで血気に

はやって功名を得ようとするな。天恵を得た

ければ我に続け」

「おおぅ」

全員の雄たけびとともに各自の持ち場に散っ

た。

秀秋は馬に騎乗し、空を見上げた。

いつの間にか晴れた空。

(鷹狩りにはもってこいだなぁ)

戦闘準備の整っていく小早川隊。

 

 その頃、戦いがこう着状態になり、怒り狂っ

た家康が刀を掴んだ。

「わしが出る。出陣じゃ!」

慌てて引きとめようとする家臣達。

家康の持った刀の研ぎ澄まされた刃が光る。

同じく振りかざした刀を松尾山のふもとに

向ける秀秋。
                 つづく