【小早川秀秋幻記】其の27
秀秋はこれまで運命に逆らえなかった。養
子に次々と出され、抵抗しても無駄だった。
まるでタンポポの種が風に飛ばされて落ち、
その場所がどんな所でも咲かなければならな
いように、与えられた条件を受け入れるしか
なかった。
(どうせ捨てるものは何もない)
秀忠の部隊が間に合って、自分の出番がな
く、命が尽きるのもいいと思っていた。
合戦開始から四時間が経とうとしていた。
三成は陣中にどっしりとかまえ、微動だに
しない。対する家康は、陣中をうろちょろし
て落ち着きがない。
「秀忠はまだか。何で誰も動かん」
秀秋のもとに家康の使者がやって来た。
「秀忠様、ただいま関ヶ原へ向かわれていま
すが、到着が遅れております。秀秋殿には疑
念がおありのようですが、家康様に二心など
なく、秀秋殿にはかねてより備前と美作を奉
ずることに偽りなく、早急のご出陣をお願い
申し上げます」
しばらくすると家康の内情を探っていた小
早川隊の兵卒からも秀忠の到着が遅れている
ことが知らされ、家康の策略でないことがはっ
きりした。
つづく