【小早川秀秋幻記】其の26 | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

【小早川秀秋幻記】其の26

 ただひとり家康の使者で来た奥平は、秀秋

がいつまでたっても動こうとしないことに、

家康の怒っている姿を想像して肝を潰す思い

だった。

「秀秋殿。ご出陣を」

秀秋は関ヶ原の地形図に手を添えて示し、

奥平を睨(にら)みつけた。

「家康殿はまだ布陣が整ってないのに戦いを

始められた。秀忠殿も来てないではないか。

俺は将兵を無駄死にさせる気はない」

「お恐れながら、西軍には大殿と内応してい

る部隊がおります。秀秋殿のご出陣があれば

それらも動き、必ず勝利します」

「俺より先にその部隊が動かんのはどうして

だ?皆、秀忠殿の兵を家康殿が温存している

と思っとる。このままうかつに動けば、戦っ

た後、どちらが勝つにしても裏切り者の汚名

をきせられて何をされるか分からん。まずは

秀忠殿がなぜ来ないのかそれをはっきりさせ

るのが先決であろう」

 秀秋の勢いに奥平はひるんだ。

「では、秀忠殿の所在を調べて参ります」

奥平はいたたまれず立ち去った。

それを見た稲葉が秀秋の側に寄り、

「よろしいのですか?家康殿に疑われますよ」

「なぁに飢えた獲物はどんな餌にでも食いつ

く。家康には天下をくれてやるんだ。こうし

て地獄の苦しみを味わえば、助けた者が小僧

でも神仏に見えよう」

とは言ったものの、地形図を見ては考え込

む秀秋。
                 つづく