【小早川秀秋幻記】其の9 | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

【小早川秀秋幻記】其の9

家康も秀吉の手前、それを怒りもせず喜ん

で付き合う振りをしていた。

秀秋はそうとも知らず、ふとその頃がよみ

がえった。

「家康ともよく遊んだことを覚えている」

家康は一瞬、秀秋をにらみつけた。

(家康…)が、すぐ笑みを浮かべ、

「そうそう、太閤のご遺言により、秀秋殿の

以前の領地が戻されることが決まりましたな。

よろしゅうござった」

「その礼に参った。家康が力添えをしてくれ

たおかげだ。今後、役に立てることがあれば

申せ」

それを聞いた家康は周りにいた諸大名にも

聞こえるように声をあげた。

「ほほぅ、秀秋殿に助けてもらうようでは、

わしも隠居せねばならんの」

 周りにいた諸大名が秀秋を覚めた目で見つ

め苦笑した。

 秀秋は「はっ」と表情を変え平伏した。

(しまった。俺は小早川、豊臣ではなかった)

 秀秋は我にかえり、小早川隆景の養子になっ

ている今、家康にとって自分は身分の低い、

ただの小僧でしかないことに気づいた。

 家康の高笑いに、諸大名も秀秋の無作法を

小声でけなした。

「虫けらが家康殿の駕籠(かご)を担ぐとよ」

「ほお、それは見物だわ、駕籠にたどり着く

前に草履(ぞうり)で踏み潰されるのがおち

じゃ」
               つづく