タタリアン-トンネル- | 関ヶ原の合戦を演出した小早川秀秋

タタリアン-トンネル-

 ある町に昔に造られた長いトンネルがあっ
た。
 過去に12人が死亡するトンネル火災事故
が起き、それ以来、トンネルを走る幽霊を見
たとか自動車の後部座席に現れる幽霊とかの
噂が絶えなかった。
 いつも夜になると自動車はよほどのことが
ないかぎり通ることはなかった。

 ある夜。
 自動車の見あたらないトンネルに、飛行物
体がスーッと入って行った。
 トンネルの中で飛行物体は停止し、ひとり
のお爺さんが降りた。
「ああ、ありがとう。じゃ、またな」
 話しが終ると、飛行物体はまたスーッと飛
んで行った。
 ひとりトンネルをトボトボと歩くお爺さん。

 お爺さんの名は矢杉平助といい、トンネル
の近くにひとりで住んでいた。

 家に帰った平助は部屋にある水槽に向かっ
た。そして手に持っていた錠剤のようなもの
を水槽に入れた。
 錠剤は泡を出して水中に落ちたかと思うと
見たこともない生物が孵化し泳ぎ始めた。
 そしてすぐに分裂し2匹になった。
 そのうちの1匹を筒の中で隠れていた両生
類のような生物が一飲みにした。
 平助は水槽の中の出来事には興味がなく、
ソッポを向いて別の部屋に行った。

 平助の入った部屋には円柱の黒いタワー型
パソコンのような物があり、平助はそれに向
かって焚き火にでもあたるように手をかざし
た。するとその上に、お婆さんの立体映像が
現れた。
 平助は抱きしめるように手をのばし、
「婆さん、帰ったよ。また娘に子供ができとっ
たよ」
 そう言うとお婆さんの映像は何も言わず、
ニッコリと微笑んだ。
 平助は旅の土産話を延々とお婆さんの映像
に向かって話した。

 平助の家の裏には山があり、ウサギやイノ
シシ、時には熊がでる森があり狩猟が許可さ
れていた。
 その森にふたりのハンターと3匹の猟犬が
入り獲物を探した。
 ハンターは立ち止まり、じっと耳をすませ
た。
 下草がザワザワと音を立てるとすぐに猟犬
を放ち、その跡を追った。
 イノシシが姿を現し走って逃げる。
 猟犬がイノシシを追いたて吠えると、ハン
ターの銃声が鳴り響いた。
 ふたりのハンターが駆け寄ると小ぶりのイ
ノシシが息絶えていた。
 ふたりはイノシシを持上げて帰ろうとした。
その時、地面が盛り上がり爆発した。
 ふたりは吹っ飛び、2匹の猟犬が死んだ。

 次の日、消防団がふたりのハンターの死体
を発見した。
 爆発したのは第二次世界大戦時の不発弾と
分った。
 消防団員が他にも不発弾がないか辺りを調
べ、平助の家にもやって来た。
 平助は玄関のドアから顔を出し、消防団員
の話しを聞いた。
 平助は消防団員が何を言ってもニコニコ笑っ
てうなずくだけだった。
 困った消防団員はとりあえず出歩く時は注
意するようにとだけ念を押して立ち去った。

 しばらくたったある日の夜。
 寝しずまった平助の家に近づく人影。
 月明かりに照らされた顔は不発弾の注意を
した消防団員だった。
 消防団員は玄関のドアをこじ開け、なにく
わぬ顔で入った。そして窓からの月明かりを
頼りに家捜しを始める。
 消防団員は平助がひとり暮らしで耳が遠い
のをいいことに平気で物音をたて、あたりか
まわず散らかした。しかし金目の物がなかな
か見つからなかった。
 水槽が目にとまったので覗きこむと、見た
こともない生き物が泳いでいる。
 消防団員は手に持った包丁で水槽を突っつ
くと両生類のような生物が大きな口を開けて
水槽のガラスに吸い付いた。
 ビックリして後ずさりする消防団員。
 気味の悪い家に少し臆病になり、別の部屋
に向かった。
 
 消防団員が別の部屋に入ると目の前に黒い
物があったが、月明かりがとどかずよく見え
ないので大胆にも蛍光灯をつけようと天井に
向かって手をのばした。すると青白くぼんや
りとお婆さんの姿が浮き上がって現れた。
 消防団員は声が出ず、息をするのも忘れて
部屋を出た。
 そして自分が部屋中に散らかした物に足を
とられながら慌てて平助の家から飛び出して
逃げた。

 翌朝。
 平助が部屋を見ると物が散乱していた。し
かし動揺もせずいつもと変わらない平助は、
柱の傷に見える印を触った。すると小さなロ
ボットがいたるところからゾロゾロと現れ散
らかった物を片付けていった。
 平助は台所に行き、戸棚からトレーを出し
た。そのトレーは細かく区切られていた。
 平助はそのトレーの上から水をかけ、そっ
と置いた。すると湯気がたち始め、モコモコ
とパンのような物が膨らんだ。別のところに
は野菜スープのような物が現れたり、マッシュ
ポテトのような物もあった。
 平助はそれらを美味しそうに食べた。
 トレーは水をかける場所によって色々な食
べ物が現れ、尽きることがなかった。

 平助が帰って来て3ヵ月たった日の夜。
 トンネルに自動車が猛スピードで入って来
た。
 運転している男は何かに追われているよう
におびえていた。
 自動車の跡を追うようにトンネルの側面を
白い人のような姿が何人も駆け抜けて行った。
 その直後、自動車は後輪が浮いて吹き飛ば
されるようにトンネルを走り抜けた。
 自動車が1台も見えなくなったトンネルに
スーッと飛行物体が入って停止した。
 そこへ平助がいそいそとやって来て、飛行
物体に乗り込んだ。
 飛行物体はまたスーッと飛んでトンネルを
出て行った。

 地球からいっきに宇宙に飛び出す飛行物体。

 飛行物体の内部。
 平助は殺風景なフロアのイスに座っていた。
 大きなブリキのおもちゃのようなロボット
が平助の世話をしていた。
 ロボットがかたことの日本語で、
「ト・ウ・チャ・ク・シ・マ・シ・タ」
 すると平助の体の周りに光りが集まり、平
助は消えた。

 雑木林。
 光りが集まり、平助が現れた。
 そこは飛び立ったはずの地球にあるトンネ
ルの上の雑木林だった。
 地球とは違い、トンネルに通じる道路には
自動車がひっきりなしに走っている。しかし、
自動車はどれも地球のモノと同じだった。
 平助は雑木林を歩き地球と同じ家にたどり
着いた。

 家に入った平助は部屋にある水槽に向かっ
た。
 水槽には地球で普通に見かける金魚が泳い
でいた。
 平助は側に置いてあった金魚のエサを水槽
にパラパラとまいた。
 美味しそうにエサを食べる金魚。
 ここでも平助は水槽の中の出来事には興味
がなく、ソッポを向いて別の部屋に行った。

 平助の入った部屋にはちゃぶ台があり食事
の用意がしてあった。
 台所には若い娘がいて料理の盛り付けが終
わると、平助の居る部屋に持って来た。
 若い娘は平助が帰って来ているのを見て、
「あら、早かったんですね。お里はどうでし
た」
「うん、何も変わりはなかったよ」
「そうですか。でも、危ないめに遭わないか
と心配です」
「そうじゃのう。あとなん回、戻れるか」
「こちらに居てくだされば安心ですのに」
「心配かけてすまんのぉ」
「そんなこと言わないで下さい。さあ、食事
にしましょう」
 平助と若い娘は楽しく食事をした。

 家の裏は竹林になっていて、いたるところ
で竹の下のほうが光って、赤ちゃんのか細い
泣き声がしていた。

終わり