新聞小説「マイストーリー」(6) 林 真理子 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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作:林 真理子 挿絵:三溝美知子

                              続きは(7)

感想
有名プロデューサー、俳優を集め、鳴り物入りで開始されたTV番組が思いの外伸び悩む。更に注目の原作者にAV女優の過去があった。
この情報社会で、過去2本のAV主演がバレない筈がない。

この由貴という女の甘さ。さて太田はどう対応するのか。
しかし辺見って、最初はヤな奴だと思っていたが、高木の原稿料を印税契約にする様尽力するとか(これって重要)

すごく好感が持てる。

 

序盤では案外地味だなーという印象だったが、ここに来て俄然生彩を帯びて来た。ここらへんからが林真理子の真骨頂だろう。

 

あらすじ

ドラマをつくる人々 216~246(12/8~1/9)
新番組の記者会見会場。ミズホテレビで1月からスタートする「愛のすべて」。進行には売れっ子の女子アナを起用。出演者も豪華。プロデューサーの江口波留子が挨拶を始める。今回のドラマがさも周到な準備がされたものの様に説明する姿を見て、太田は素直に感心する。

 

一段落して江口が由貴を紹介する。元女優という言葉を聞いて小さなざわめきが起こった。由貴は主人公の友人の役で時折り出演するという。闘病記にはしないでくれという事をある時期からピタリと言わなくなった由貴に対し、辺見と組んだ事を感じ、怒りをもつ太田。促されて挨拶をする由貴。

よどみなく話す姿に違和感を感じる太田。

 

会見が終わり、高木が由貴に声をかけた。辺見が不在だったが、由貴が彼はリウマチがひどくて病院に行ったと話す。そんな話までしている事に驚く太田。由貴の出演は辺見のアイデアだった。

テレビドラマ化をきっかけに主導権を握ろうとしている辺見。

 

だが高木は、そんな辺見もテレビ局に利用されているのだと言う。高木は、辺見の主張で報酬を印税契約にしてもらっており、それはゴーストライターにしては破格の好条件だった。

あざといところはあるが、基本的にはいい人だと言ってその場を去る高木。

 

「愛のすべて」は放送前にDVDで関係者に配られた。会議室で同僚の浦田絵里とそれを観る太田。

絵里の話では人気のソングライターが主題歌を提供しているという。第1回目は原作に忠実に作られていた。

主役のミユキが湯治場でレポーターの仕事をこなす。

そこへディレクターの男が声をかける。

ドラマのテンポは速く、二人はすぐにスナックで酒を飲む関係になり、ドラマの終わりには男がプロポーズするところまで進んでいた。ちょっとせわしないと思う太田に対し、絵里の評価は概ね良かった。

 

放映日の翌日、由貴から太田へメールが入る。視聴率が14.3%だった話を辺見から聞いていた。ドラマの5回目で由貴の出番になるとの事。辺見からすぐ連絡が行ったこと、由貴の心の昂ぶり、いずれも太田には不快だった。メールは雨宮恭子からも来ており、太田はそのいずれにも返信した。
放送後「愛のすべて」の本は5万部増刷された。TVドラマがきっかけで本は大きく動き出したのだ。もっと仕掛けるべき、と広告を打つ提案をする辺見。

社長はネット情報の評判を聞いてやや弱気になっていた。

それを笑って女性週刊誌にも声をかけたいと言う辺見。

 

だが周囲の期待を裏切って次週の「愛のすべて」の視聴率は11.3%と下落した。局プロデューサーの江口からのメール転送を受ける太田。一方本の方は順調な売れ行きを示し、たやすく15万部を超えた。

10万部を超えると高木の印税は2%から4%にアップする。

嬉しいながらも、思ったほどは伸びないだろうと冷静に分析する高木。

 

3週目でドラマの視聴率は10.7%となった。太田と一緒にDVDを観ながら浦田絵里が闘病ものの小説、ドラマについての持論を語る。第5回目で由貴の出る場面となった。主役の友人の設定。

涙を流す演技に素直に感心する大田。
由貴からのメール。一介の主婦が夫の死と引き換えにTV出演している事への言い訳。太田に会って話がしたいと言う。
太田は儀礼的な内容の文を返す。

 

ドラマの視聴率は5週目にして遂に10%を割った。TV局では対策のため、闘病から離れ、映画祭を中心にしようとしていた。

そして実際に映画祭をやる様子。
ミズホテレビのゴールデンで一桁の視聴率が続いたら、打ち切りになる恐れもある。プロデューサーの江口は窮地に立たされていた。本の方は25万部に達しようとしており、太田は本の方はTVの力を借りなくても売れて行くという自論を述べた。

辺見が、由貴がまたTVに出演するという江口Pからの言葉を伝えた。そこで辺見が「あの奥さん、芸名は何て言ったの?」と聞いた時の会話を太田は後で何度か思い出すことになる。

 

翌日、高木から由貴の芸名が何だったかメールで聞いて来た。

胸騒ぎを覚える太田。
小説のポイント部を読むと、売れない女優の一人であったという記述。だがどこを読んでも彼女の芸名は書かれていなかった。
本当に売れておらず、大して仕事もしていなかったという由貴の言葉にひきずられて聞かずじまいで終わっていた。

 

夜が更けてからの高木からのメール。由貴の芸名が判った。「小暮由季奈」。20代の時にAVに出ていたらしい。

ネットで騒がれ始めていた。
「愛のすべて」で検索をかけると書き込みでぎっしりとなっていた。過去に出た2本の主演作の事も暴露されている。

どれも楽しげな悪意に満ちていた。
高木は今回の件を自分のミスだと詫びた。それはノンフィクション作家のプライドだったが、今回はノンフィクションではないと太田は否定した。彼女が自分に都合の悪い事を言わなかった件について調べ切れなかった事は不可抗力。
高木から由貴へ全く連絡が付かない状態だった。
太田は、直接由貴を訪ねる事を決心した。

高木に同行を求めたが、依頼したインタビューがあり動けない。
太田は思う。匿名の者と、名前を出す者との戦い。