「証明」 松本清張 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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短編集「証明」 松本清張


「証明」
フリー雑誌記者の久美子。夫の信夫は勤めを止めて作家を目指し、雑誌社に原稿を持込む日々。だがそれは報われず、生計は久美子に頼っていた。
信夫は嫉妬深く、毎日の様子を微細に渡って報告させられているうちに、久美子は防衛のためその行動記録をつける様になる。
ある日、やや粘着質の洋画家守山との取材対談があり、その記事を読まれる事で夫に勘ぐられる事を避けて、知己のある仏文学者平井にアリバイ協力を頼む。だがそれがきっかけになり平井との不倫関係に。


「新開地の事件」
都市近郊。農地を開発してベッドタウンになりつつある地域での事件。
長野直治の家に間借人として入った下田忠夫。

菓子職人見習いとして有名菓子屋に通う。

数年を経て職人となった忠夫は長野家の娘富子と結婚し養子に入る。

忠夫は直治の援助もあって洋菓子店を開き、繁盛する。姑のヒサ。
直治はその後卒中で倒れ、体が不自由に。

1年ほど経った頃庭先で転倒し直治は他界。
ある日姑のヒサが殺される事件が発生。

自分が殺したと自首した忠夫。だがその供述には不可解さがあった。


「密宗律仙教」
新興宗教の教祖尾山定海(俗名武次郎)はもともと印刷工の見習いだった。

職場の先輩からの手ほどきを経て数々の女性遍歴も経験するうちに、ある種の宗教法人に入り込む。
そこで密教の裏に潜む性的なものを編集し、自分なりの解釈を行い「律仙教」を創設する。信者は女ばかり。
信者の亭主が原因不明の病気になって死ぬという例がいくつか続く。


「留守宅の事件」
車のセールスマン栗山敏夫。出張の留守中に妻が殺されたと通報。疑いあるも栗山には完璧なアリバイがあった。


1970年前後で週刊誌に掲載された松本清張作品の一部。
当時の売れっ子推理小説家として、あるレベルの作品を量産する中でのものであり、長編の書き下ろし小説とはまた違った面白さがある。


妻の不倫を知らずに自殺した夫に対する贖罪のため、その夫が復讐した様に工作して相手の男を殺した女(証明)。
間借人に入り込んだ男に肉体関係を迫り、娘と結婚させた後も関係を続けた姑と、実の母親を殺した娘。

その事実を知って罪を被ろうとした男(新開地の事件)。
女遍歴の末に密教の教祖になった男を巡って、信者の女が繰り広げるドロドロの世界は「わるいやつら」にもイメージがつながる(密宗律仙教)。


見落としそうな事件に側面から光を当ててその裏側を暴いて行く手法は、彼の得意とするところ。
「留守宅の事件」の最後に、犯人の自供で殺した妻のツーピースを切り刻んで海に撒き散らしたというのは「砂の器」で恋人が証拠の服を処分した時の方法と同じであり、「使いまわしかよ」というツッコミが入るが、まあいいか。