「俘虜記」 大岡昇平 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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8月のお題「俘虜記」

 


You Can Fly-furyo

 

戦争の匂いのする小説は先に読んだ「斜陽」や「野火」に代表される復員者に絡むものがあるが、今回は本人そのものが戦地で経験した出来事に根ざしており、その点での迫力があった。

 

自分自身の戦争に関連する記憶としては、幼い頃父と風呂に入った時見せられた腹から脇への「貫通銃創」。その父も私が幼い頃他界し、当時の様子を聞く事は出来ない。

 

「捉まるまで」の章で生と死のギリギリのところで水を求めてさまよった時から、捕虜となって以降、生命の危険から遠ざかるにつれ、次第に入り込んで来る「世間」の感覚。その状況の変化に微妙に順応し、思考まで変化して行く様が興味深かった。

 

収容所での出来事については、確かに事実かも知れないが、いささか冗長すぎて読みものとしてはいまひとつ。
結局「捕虜」というものをそれ以上でも以下でもなく淡々と描く事で、俗物的な部分も含め自身の総括としたのだと思う。

 

その点で言うと「捉まるまで」で描かれた「なぜ米兵を撃たなかったか」の長い描写については、むしろないほうが良かった。後の通訳としての処し方から見ても違和感がある。