「斜陽」 太宰 治 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

朝日新聞で「百年読書会 」というのを4月から行っている。


毎月「お題」を決め、毎週日曜の紙面で読者の投稿も取り混ぜて「重松 清」が解説するもの。半年間続くものであり、全ての回に投稿すると記念品がもらえるらしい。


4月の本は「斜陽」
5月の本は「楢山節考」


一応参加しているが、投稿が採用される気配はなさそう・・・・・
投稿は400字程度が前提であり、とても作品紹介まで行かないので、ここでは従来のペースでの書評をアップします。


太宰治 「斜陽


You Can Fly-shayou


太宰治については、遠い昔に教科書で「走れメロス」を読んだ程度であり、全くといっていいほど知らなかった。
物語としては、没落した貴族の滅び行く姿が淡々と綴られていく。
戦前は貴族として優雅に暮らしていたが、敗戦の混乱の中で暮らしが立ち行かなくなり、叔父の差配で伊豆の山荘へ。
阿片中毒崩れで復員して来た弟の直治に振り回されるかず子。


僅か一行で数年の前後関係となり、注意深く読まないと混乱するが、一人称としてのかず子ならではの表現と考えれば納得できる。

母が結核で死に、弟の直治も放蕩の末自殺。そんな中で、大して愛し合う関係にもならなかった上原の子供を産む決心をするかず子。
かず子の一人称で語られるせいで、上原との出逢いや彼に対する思い等、さほど深く考え、苦悩している様には見えないが、その行動と組み合わせてトレースするうちに一人の女の生き様と性が見えてくる。
直治についても、貴族として育った事による生活力、生の実感のなさに哀れを感じた。


この「斜陽」については愛人でもあった太田静子 から入手した日記を題材にしていたからか、世間がもてはやす程の感銘は受けなかった。

また上原との絡みの中でしつこいぐらいに出てくる「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」。貴族、死という連想から来るものだろうが、妙に引っ掛かった。


太宰自身の家系が津軽の大富豪であり、恵まれた環境なるがゆえに実社会へ溶け込めなかったギャップをこの二人に投影しているが、自殺未遂を何度も繰り返し、結局死んだ彼の人生が背景にあると思うと、かず子に託した思いが余韻として残る。

ただ、悩み、苦しみ、傷付きといった部分で表現が説明的に過ぎ、逆に実体感に乏しく、表層を流れて行く様に見える。死ぬほど苦しんだといいたいだろうが、「文豪ってこんなもん?」という気もする。


自殺した人間に対して基本的に冷たいのかな?
でも自殺する時に何度も女を巻き添えにする事自体が人間としてダメだわな(まさに人間失格)。


映画 もこの5月に上映されるらしい。温水が上原をやるんだって(笑える)


なお、著作権が切れているので、ネットから全文 を入手可能(本買ってから判った・・・)