「人間そっくり」 安部公房 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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sokkuri


「こんにちは火星人」というラジオ番組を受け持っている売れない脚本家の家へ、彼のファンだという男が訪ねて来る。
男の応対をする脚本家だが、話すうちに男が、自分は火星人だと言い出し、それについて延々と議論が展開される。
度々、脚本家を迷わせる様な提案を持ちかけ、それに乗ると男は見事に裏をかき、また全く別の話に飛躍する。


SFというより、会話を積み上げて行きながら腹を探り合う「心理ドラマ」。
もともとこの脚本家、軽いノリで始めた番組が、実際に火星への探査船が火星に到達する様な事態が近づくにつれ、かなり微妙な立場に立たされていた。
そういう中で今回の訪問を受け、殊更に相手の会話に対して様々な伏線を感じ、自ら深みに落ち込んで行く。
妻の助けを借りて、時々現実に引き戻す作業をするが、結局男の話術から逃れられない。


話の流れで男の家に乗り込む。そこには電話で話した男の妻が。
女は、男が精神的にオカシイという前提で脚本家と話を合わせる。ついその罠に落ちる脚本家。


これを読んだのは、もう20年以上前のこと。実際ほとんど内容は忘れており、つい先日「BOOK OFF」へ娘のアッシーをした際、ついフラフラと買ってしまったもの。


読み易いといえば、確かにそう。それは「カンガルー・ノート」と同じ。
だが、最後の結末を読むと、現在我々が生活しているこの世界がちょっと歪んで見える様な気もする。果たして自分は「地球人」なのか「火星人」なのか。これは別に「家族」か「他人」か、「社員」か「それ以外」か、でもいい。


「本物」か「そっくりなもの」か。自分の属するものに対する定義が崩れた時、自分自身が一体何者かという確信も同時に崩れる。

多分精神疾患を経験した人は、この感覚が理解出来るのかも知れない。