「人生の親戚」大江健三郎 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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小説家である「僕」は、長男「光」が養護学校で友達になった「ムーサン」の母親「まり恵さん」と知り合いになる。
子供の障害を自分の責任と感じ、ムーサンを引き取り離婚して母親との3人暮らし。だが元夫に引き取られた次男が交通事故に遭って下半身不随になってから、再びこの家族は一緒に暮らす様になる。
だがこの兄弟は伊豆高原への小旅行先で、断崖から身を投げて自殺。
再び夫と離れたまり恵さんの、その後の人生が淡々と綴られる。

 

語り手が小説家、障害児の「光」という息子ありという事で、てっきりノンフィクションだと思って読んだため、かなり強い思い入れと共に一気に読んでしまった。
2人の子供に同時に死なれる(それも自殺)というどうしようもない喪失感から、母親がどうやって回復して行ったかの軌跡を描いたものであり、一部彼独特の難解な言い回しもあるものの、ストーリー理解を損う様なことはなかった。

 

「人生の親戚」とは、単純に読んだ好ましい意味ではなく、どのような境遇にある者にもつきまとう、あまりありがたくない出来事・人のことを指すと解釈されている。(まあ持病とか、定期的に金をせびりに来る旧友とか、その辺も含むか)

結局大江健三郎という作家は、息子が障害児として生まれた事で、作家としてインスパイアされた部分があるが、それが良い事だったか否か。
つらい経験というものは、人間を成長させるのか萎縮させるのか。耐え難い苦痛に出遭った時、人は何を支えに生きていくか。宗教がその受け皿になる場合も多いだろうが、この主人公はそれに頼らなかった。結局「時間」が一番の薬なのだろう。

 

ところで、「大江健三郎賞」が創設されたらしい。
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/shakai/20051005/K2005100404980.html
うーん、賞金なし(英訳がご褒美)、選者も大江氏1人とは、ちょっとイマイチやなー。