「流星ワゴン」 重松 清 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

ryusei2

 

言って見れば「不思議小説」てなカテゴリーかな?
38歳のサラリーマン「永田一雄」。中一の息子は登校拒否に家庭内暴力。妻はよく判らない外出が多い。思いがけずリストラに遭って失職。そんな時の会社(にまだ行っている事になっている)帰り、駅前に停車中のワゴン車の中に居た少年に声を掛けられ、乗り込んでしまう一雄。
クルマはワインカラーの「オデッセイ」。乗っているのは橋本さん親子。免許を取って1週間目に事故を起こして2人とも即死。だからこれはクルマごと「幽霊」という設定。
彼らは一雄を過去の「岐路」だったと思われる場所に送り届ける。そこで出逢ったのは、自分と同年代の「チュウさん」という男。実は、彼は田舎の病院で危篤状態の一雄の父だった。

 

何か、実にバカげた設定だという雰囲気だったが、全く違和感なく読ませてしまう。父親に対しては畏怖や反発もあり、ほとんど心の交流はなかったのが、同年代となって現れた父(チュウさん)はエネルギッシュで情に篤く、ペースを乱されながらも見直していく。橋本親子が連れて行く先々でも、一雄はその現実に起こった結果を変えることは出来ない(タイム・パラドックスの定義は一応守られている)が、その事態に直面した一雄自身の意識は全く異なったものに変化し、彼は少しでもそれを良い方向に向けようと努力する。
一体何のためにこんな事をするのか?中盤で、事態を何も変える事が出来ない無力さに一雄はイラ立つ。

いつもの重松「オヤジ路線」だが、ちょっと切り口を変えて新鮮だった。

 

大切な場所に再び降り立つことで、事実は変えられないにしても、その出来事を別の視点で眺め、その時見落としていた「大事なもの」をサルベージする。これは別に実生活でもやれない事ではない。
何でも「終わってしまったこと」とは思わずに、辛抱強くその時の事実、気持ちなどを解きほぐし、再構築する中で見えてくるものがあるのかも知れない。