燃えつきた地図 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

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興信所の調査員。半年前から失踪している夫の調査を依頼した女の元に出向く。印象の希薄な女。手掛かりは喫茶店のマッチだけ。淡々と職務に忠実に従うと思われた男が、次第に失踪した男のエリア(精神世界)に引きずり込まれて行く。

依頼者の実弟。喫茶店はもとより、失踪した男の職場(燃料店)への聞き込みに行くと、そこでも出会う。失踪した男の部下だった田代の語る、彼の別の人格。だがその話には虚言があった。実弟の死。

失踪した男の裏の職業。田代も結局自殺。男自身も妻との確執で別居状態。帰る所を持たない身の上。興信所も辞め、職業としてではなく真相を追う男。調査の中で襲われた後、依頼者の女の元へ。ひとときの安息。彼女の家を辞して歩き出す男。見慣れた筈の風景。

だが歩き出す先の景色には見覚えがない。次第に記憶があいまいになって行く中で帰るべき場所を見失って行く…・・。

 

数回読んでいるが、出張が続いたのでフッと今回読んだのが数年振り。新聞、コーヒー、ガソリン代。こと細かに当時の金額がトレースされ、ややシラける感じがあるが、彼とて小説家。これも後世で読まれた時の時代背景を浮き彫りにする手段なのか。

燃料店の課長だった根室を追ううちに、対象とする者を次第に見失って行く過程がジワジワと迫って来る。逢う度に増大していく依頼者の女に対する思い入れ。ただ性的に求めているわけではなくて、失踪する事自体に対する思い入れなのか。

 

最後の30ページあまりは、何度読み返しても難解であると共に、惹かれてしまう。「過去への通路を探すのは、もうよそう」最後が案外ポジティブな締めで終わっているのも、ちょっと救いがあっていい。ただ、それは失踪礼賛という事なのかな?