Thomson Reuters はノーベル賞発表の季節が近づくと、毎年受賞者の予想を発表するが、2011年の経済分野では以下の5人を挙げている:

  • Douglas W. Diamond (analysis of financial intermediation and monitoring)
  • Jerry A. Hausman (the Hausman specification test and the White standard errors test)
  • Anne O. Krueger (description of rent-seeking behavior and its implications)
  • Gordon Tullock (description of rent-seeking behavior and its implications)
  • Halbert L. White, Jr. (the Hausman specification test and the White standard errors test)

 

受賞予想の根拠は上記の通りだが、簡単に和訳しておくと、Diamond2010年に受賞したのはPeter A. Diamondで別人)は銀行の取り付け騒ぎと金融危機に関する分析モデルに関する業績。

 

HausmanWhiteは統計モデルの有効性を確認するための分析手法に関する業績。

 

KruegerTullockはレントシーキング(rent-seeking)に関する業績。

 

2008年に金融危機が起きたことで、市場に対する懐疑論が世界的に広がった。アカデミーのメンバーもご多分にもれず、市場メカニズム以外の分野で業績を残した者を受賞者に選んだが、昨今の①「エコ」を大義名分にしたバラマキ政策の失敗や、②それが各国の財政を圧迫したこと、③オバマ政権のように期待されて当選したが、社会主義的アプローチではうまくいかず、国民の不評を買っている点など政府主導のアプローチに対する反動が起こるだろう、というのが長尾の勝手な解釈。

 

特にレントシーキングの研究を残したKruegerTullockが受賞すれば、ノーベル賞をありがたるわが国にとってもいい影響があるかもしれない。いうまでもなく、日本には既得権確保のために政治家や役人に働きかけ、既得権保持者にとって有利なルールを作らせることで、社会全体に迷惑をかけながら、自らは甘い汁を吸う輩(レントシーカー)が多いからだ。

 

例えば:

  • 発送電分離に反対する電気事業者
  • 農業の自由化やTPPに反対する農業従事者
  • 医療改革に反対する医師会
  • 電波オークションに反対する放送・携帯電話事業者
  • 薬のネット販売に反対する薬局・ドラッグストア経営者
  • 101000円の床屋を締め出すためにシャンプー台規制を求める昔ながらの理髪店経営者
  • 公務員制度改革に反対する役人

 

以前の記事の中で 「宇沢弘文氏がノーベル賞したら、自動車が乗れなくなる」と冗談で書いたが、氏が受賞しても「年間20mSv以下の放射線量ならば自動車よりも有害」と発言するならば、逆に日本に蔓延する放射線ヒステリーが改善されるので悪くないかもと一瞬思ったが、氏はTPPに反対しているからやっぱりダメだと思った。

 

それでも庶民の間で、「われわれは日々トレイドオフに直面し、自動車を例に挙げると、排ガスが人体に悪影響を与えたり、交通事故を起こす一方、救急車として利用すれば人命を救う道具や生活必需品の流通コストを下げ、生活苦が原因で自ら命を絶つ者を救う手段として利用できるという側面があり、どちらかより便益の高い方を選択する必要性に迫られている」という事実が共有されるならば、そこまで悪くないかもとも思った。

 

蛇足

  • 日本からは物理の分野でスピントロニクスの研究で知られる東北大学の大野 英男氏が受賞者予想リストに含まれている

 

最後に

I thank Greg Mankiw for the pointer.

 

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