1 初めての依頼
「あの……事件の、依頼なんですが。」
チョコゲロが、紙を出す。
「……亡くなりました。ぼくの兄が。」
「……。」
静か。悲しい空気。
「カプチーノ兄さん……。」
涙をこらえて、チョコゲロは叫んだ。
「どうか、犯人を見つけてください。――認識させてください!人の命がどんなに大事かということを。」
デカゲロは、実際に残された家族の様子を見て、改めて感じた。
殺人事件が、どんなにひどいかということを。
(絶対解決しなきゃ。チョコゲロさんを悲しませたままではダメ――。)
「……先輩。ここは、ぼくたちの出番です。」
「そうだよ。」
なかゲロととくゲロが言った。
「頑張ろ~!」
「メガゲロっ!」
空気の読めないメガゲロを、なかゲロが叱った。
とくゲロが言った。
「絶対、解決しなきゃ。」
デカゲロが答える。
「――うん。ぼくたちがやらなきゃ。ぼくたちの出番だよ。」
「たまにはこんな悲しいこともあります。――でも、ぼくたちはやらなきゃいけないんです。」
なかゲロがみんなに伝えた。
そして、デカゲロたちは、動き始めた。
2 オルゴール
まずは、チョコゲロに話をきいた。
「何か、知っていることは……」
「兄は、成績優秀で、よく推理小説を読み、推理が得意だったみたいです……。」
デカゲロは、チョコゲロの話を一言ももらさずに書き留めた。
「でも、最近様子がおかしくて……」
「どんな様子でしたか?」
デカゲロは即座にきいた。
「何か、一日中イライラして、ちょっと落ち着いたかなと思ったら、どこかに出かけてまたイライラして帰ってくるんです。」
「どの辺で事件が起きたか知っています?」
「いいえ。」
「カプチーノさんは、何か言っていましたか?」
チョコゲロは、「カプチーノ」と聞き、泣き出してしまった。
――♪♪♪――
静かに流れてきたのは、そう。あのオルゴールの音。
優しい音が、チョコゲロを包み込む。
「……ごめんなさい。特に、何も言っていませんでした。」
少しは、心も落ち着いた。
「そうですか。ありがとうございます。」
「きれいですね……」
「え……?」
「オルゴール……優しい、音……」
「またいらしてください。このオルゴールは、『ピクルス・オブ・ジュエリーで買ったものです。何回でも聴かせてあげますよ。」
「ありがとうございました……どうも。」
チョコゲロは、少し緩んだ顔で、事務所を後にした。
デカゲロは、このオルゴールを買って良かったと思った。
デカゲロも、このメロディーが好きだった。
なんていう曲かは分からないが、
聴いていると、心がきれいになる気がした。
3 頭に流れてきた
そして、繰り返しオルゴールを聴いていると、デカゲロの頭に、事件が起こる様子が流れてきた。
そこは人通りが少ない道路だった。
カプチーノと思われる、薄茶の人物が歩いている。
そこに、全身黒ずくめ、黒革の手袋、そして仮面を付けた人物が現れた。
ポケットに手を入れた。取り出したのは――注射器。中に不吉な色をした、液体が入っていた。
それを、カプチーノに……――。
デカゲロは、やっと目覚めた。
「先輩!大丈夫ですか?……先輩が突然倒れたので、とても心配になりました。」
なかゲロが、話しかけた。
「う、うん……。」
――さ、さっきのは……?
デカゲロは、変な感覚に襲われていた。
なんかいきなりカプチーノが襲われる様子が頭に流れてきた。
勝手に。
止まったオルゴールを見て、さっきの心を浄化したいと思い、もう一度オルゴールをかけた。
――♪♪♪――
そして、また……。
今度は、違う場面。
気絶したカプチーノ。
黒づくめの男は、人が通らないようにある建物にカプチーノを運んでゆく。
森のなか、奥深いところ。
GPSがないと辿りつけないであろう。
そのなかの廃屋にカプチーノは連れて行かれた。
カプチーノは気を失っている……。
「とくゲロ、また先輩が気絶しました。」
「デカゲロくんっ!」
「ん……あ。」
「今日は調子が悪いんじゃないですか?べッドで休んでいてください。」
デカゲロは、隣のデカゲロの家のベッドで休むことに。
ぼくの頭、おかしくなったのかな?
その言葉が頭に浮かび、頭をブルンと振った。
4 悪魔
ベットに入る。
(なんであんな光景が……。)
デカゲロは、「ピクルス・オブ・ジュエリー」で買ったオルゴールに疑問を感じた。
(もうあんなの見たくないよ。)
カプチーノが事件に襲われる様子。
デカゲロはそもそもそういうのが嫌いだし、さらにそれだけで事件が解決できるのならば、デカゲロの「プライド」という立場が失われる。
しかし、オルゴールをかけないのならば、チョコゲロを励ますことは出来ない。一番オルゴールを気に入っているのは、チョコゲロなのだから。
一方で、デカゲロの頭には、「一個くらい、ズルしてもいい事件があるんじゃない?」という言葉も流れていた。
(わぁ~~~~~~っ!もう分かんないよ~~!)
頭をぐるぐるさせ、さらにバシバシ叩いた。
(でも、ぼくは事務所長。ズルしたって、バレないかも。バレても、地位でどうにか出来るのかも。)
デカゲロの心に、悪魔の双葉が芽生えた。
(オルゴールをかけよう。すぐに事件の解決ができる。)
悪魔の双葉は、にょきにょきっと大きく伸びた。
(一休みしたら、実行。)
悪魔の双葉は、枯れない身体になろうとしていた。
5 オルゴールで事件解決?
一休みの後、デカゲロはオルゴールをかけ続けた。
黒づくめの男が手にしていたものは、手錠。
それをカプチーノに付けた。両手につけ、離すことが出来ないようにした。
また、足にも手錠をつけた。足錠というのかは分からないが、同じように、両足が離せないようにした。
そして、最後に、口に粘着テープを貼った。
バタンっ。
またデカゲロが倒れた。
「先輩!ベットに……。」
なかゲロの声をデカゲロは聞いていなかった。
「ぼくは……オルゴールを……。」
三人には、デカゲロの言葉が理解できなかった。
「オルゴールを、かけて。」
デカゲロはそう言った。
そして、とくゲロがオルゴールをかけた。
カプチーノが目覚めた。睡眠薬だったようだ。
手錠がついている。手にも足にもついている。動けない。
そして、口には粘着テープが。
手足を動かせなくて、粘着テープを剥がせない。
視界に靄がかかり、意識が遠のいていく……。
最後に、男はこう言った。
「俺の名は……ブラックだ。」
そして、カプチーノは目を閉じた。
しばらくして、警察が廃屋を捜索した。
チョコゲロが通報したのだろう。
粘着テープを口に貼られ、手足を拘束されたカプチーノが見つかった。
そこで終わった。
6 楽勝
デカゲロは倒れている。
「先輩……なんで倒れるんですか。全く。」
なかゲロが呆れて言う。
「事件の全貌が分かった。」
デカゲロはそう伝える。
「えっ!もうわかったのぉ?教えてよー。」」
と、メガゲロ。
もちろん、説明すれば三人は納得して事件解決になるはずだ。
間違いなど無い。
楽勝じゃないか。
「まず、カプチーノは毒殺された。そのあと廃屋に連れてかれて……」
デカゲロはすべてを話す。
推理などしていないのだ。
オルゴールによって。
それがバレなければ、いいのだ。事件解決できるのだ。
「なるほど。そうですね。チョコゲロさんに伝えましょう。」
なかゲロがそう言う。バレていないみたいだ。
チョコゲロに電話をかける。
「事件の全貌が、明らかになりました。デカゲロ先輩が、解決しました。こちらへおいでくれませんか。」
「もちろんです。今すぐ行きます。」
そしてチョコゲロに内容を伝えれば、役目は終わり。
休める。
オルゴールのおかげで、こんなに楽に解決できるなんて。
(今度もオルゴールを使おう。)
と、デカゲロは思った。
7 被害者の気持ち
「来てくれてありがとうございます。」
「事件、解決できたんですよね。教えて下さい。」
チョコゲロは言った。
デカゲロは、事件の全貌を話す。
「カプチーノさんは、まず毒殺されました。」
「はい……。」
チョコゲロは、「なるほど」とうなずく。
しかし、
「どうやって分かったんですか?どこで?現場に行ったんですか?」
「もちろんです。」
と、デカゲロは嘘をつく。
三人はデカゲロが怪しくなった。
「それにしても、解決早くないですか?たったの一時間で。本当に行きましたよね?」
「はい。」
また嘘をつく。
「そうですか。」
「そして、廃屋に連れて行かれました。深い森の奥です。」
バンッ!
チョコゲロが、思いっきり机を叩く。
コーヒーが飛び散った。
「廃屋にも行ったんですか?嘘ですよね。あの廃屋は、車でも片道三十分はかかるんですよ?無理ですよね?」
デカゲロは、黙ってしまった。
「事件をただ早く解決するのが目的なんですか?この事件は……兄さんは、殺されたんですよ?なのに。……。適当に片付けないでくださいよ!!」
チョコゲロの怒りも飛び散る。
「被害者の気持ちも考えないで……。」
チョコゲロの手にはナイフが握られていた。
とくゲロの首に突きつける。
「この気持ちを分かってもらいたいのに!」
ナイフが、とくゲロの首に刺さりそうになった時。
あたりが真っ暗になった。
8 夢
「ギャー!!」
デカゲロは叫んだ。
「先輩。どうしたんですか。急に。」
「起きるの遅いー。」
「もー。全く。」
三人が呆れる。
「あれ?とくゲロ?死んでないの?」
デカゲロは戸惑う。
「あのねー。デカゲロくん。ぼくを勝手に殺さないで欲しいんだけど。ぼく、生きてるよ。」
「あれ?……ごめん。」
「また夢でも見たんですか?」
なかゲロが言った。
「うん……。殺人事件の夢。」
「怖いよー。デカゲロくん。」
メガゲロが怖がる。
「どんな夢?」
オカルト好きとくゲロが興味津々に聞いてくる。
デカゲロは、夢の内容を話した。
「先輩。適当に事件を片付けてはいけませんよ。」
「後輩に怒られた……。分かったよ。丁寧に捜査するよ。」
「また一つ学んだね。」
メガゲロもたまにはいいこと言う。
そう。
デカゲロは、
「事件を適当に片付けてはいけない。丁寧に捜査する。」
ということを今回の夢で学んだ。
しかし、また悪夢だ。
この状況から開放されないだろうか……。