昨日は、アメリカの教授には定年がない、という話をしました。

これは1994年から施行されました。

今日は、この法律がどのような影響を結果大学に与えるようになったかについてのリポートです。


情報源はここ http://www.aaup.org/Issues/retirement/retrpt.htm


American Association of University Professors(以下AAUP)という大学教授たちのための組織があります。いわゆる労働組合のように給料の交渉をすることがこの組織の目的ではなく、もっと広い意味で、大学における教授の言論の自由、いわゆる学問の自由を守るために、1915年に、当時コロンビア大学の教授で、また哲学者、教育改革者としても有名なJohn Deweyなどが中心となって立ち上げた組織です。アメリカの大学の歴史を語る上で、良くも悪くも、このAAUPを抜きには語ることはできません。

ともあれ、このAAUPが、対象となった1382の大学全てにアンケートを送り、608の大学から得た回答を基にして、教授の定年が撤廃された後、これが各大学にどのように影響を与えたかについてのリポートを2000年に発表しました。

このリポートによると、興味深いことに、約8割の大学が以前と比べて70歳以上の教授は増えていない、と答えているわけです。つまり、定年があった当時と、それが撤廃された後では、ほとんどの大学はあまり影響を受けてないということになります。ただし、これを大学別に見ると、日本で言う東大・京大のようなアメリカの研究型大学では、約4割の大学が70歳以上の教授の割合が増えた、という結果を発表しています。

全体として、定年を撤廃しても教授の高年齢化がそこまで進んでいない理由として、おそらく二つの理由が考えられます。一つは、早期退職優遇制度を各大学が実施したことです。アンケートによれば約半分の大学が1995年以降、早期退職優遇制度を拡充したと回答しています。そして、もう一つの理由は、70才を超えても働き続けたいという教授は、一般的に思われている程多くなかった、ということです。

今回、僕が注目したいのは、この2番目の理由です。

おそらく、誰もが皆、定年が撤廃されたという話を聞いた時、今後70、80の教授がごろごろ増えるに違いない、と思ったはずです。しかし、実際はそうではなかった。

これは、データが果たす大きな役割の一つを示しています。つまり、データというのは、時として固定観念に縛られがちな人々の発想の転換を促す効果があるわけです。僕が一貫して、日本の大学は政策決定をする上で使えるデータベースの構築を急ぐべきだというのは、こういう理由からです。

人間誰しも、どんなに頭が柔らかいというひとでも、固定観念というものを必ず持っています。固定観念は、時として正しい場合もあります。ただ、それは人を間違った方向へ導くこともあるわけです。もちろん、全ての意思決定が正しく行える人なんてこの世には存在しません。そしてデータも時には誤った情報を伝えることもあります。ただ、確率的に考えて、人間の固定観念のほうがリスクは大きいです。データはその間違った方向へ進む可能性を、なるべく減らすという意味において、必要なわけです。

今大学間で競争が激しくなってきているとの話ですが、現在の大学の首脳陣(特に私立大学)が、直感と経験のみの縛られた固定観念のまま、大学の運営をしているところに未来はない、と僕は思います。




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