「憲法の涙 」(井上達夫 著) | 山野ゆきよし日記

「憲法の涙 」(井上達夫 著)

 「憲法の涙―リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください2 」(井上達夫 著)

憲法の涙


 朝日新聞は6月下旬、「憲法判例百選」(有斐閣)に執筆した憲法学者209人にアンケートを実施し、122人から回答を得た。

 その結果が7月11日付朝刊で報道された。一面見出しで「憲法学者122人回答 『違憲』104人『合憲』2人」として、安保法改定を違憲と決めつける印象付けを行った。

 ところで、そのアンケート結果のうち、この朝刊でまったく報道されていないものがあった。自衛隊についてアンケートである。朝日新聞は、自社の論調にとって好ましくない結果として紙面には触れなかったのかもしれない。

 自衛隊について「憲法違反」が50人、「憲法違反の可能性がある」が27人の一方で、「憲法違反にはあたらない」は28人、「憲法違反にあたらない可能性がある」は13人だった。憲法9条改正が「必要ない」は99人、「必要がある」は6人だった。

 より回答に責任を感じられるものとして実名回答での結果もある。自衛隊を「違憲」と回答した42人のうち、9条改正について「必要がある」はゼロ、「必要がない」は39人、無回答は3人だった。自衛隊を「違憲」と指摘した学者のほとんどが、改憲は不要との見解を示している。

 自衛隊を「違憲」と回答するのであるならば、いやしくも憲法学者であるならば、当然、改憲を求めるか、自衛隊の解散を求めるべきであろう。しかしながら彼らの口からそのような言葉が出てこない。

 なぜか。「(日本は)九条があるおかげで平和だったのではない。九条があるにもかかわらず、違憲の自衛隊と日米安保が存在したから、平和だった。」(「憲法の涙」より)からであり、多くの、否、ほとんどすべての憲法学者もそのことは暗黙のうちに認めているからであろう。彼らは、自衛隊を「違憲」としながらも、自衛隊と日米安保とのおかげで平和であるということに気づいている。朝日新聞も。

 著書の直接の引用もさしてなく長くなってしまった。こちらもやや長くなるが引用して終える。

「悲しいのは、これまで言ってきたように、護憲派と称する人たちがフェアな競争ルールを定めた憲法を裏切って、自分たちに都合のいい解釈をしておきながら、同じことを敵がやると違憲だという、そういうことを平然とやっていることです。」

 国会でのんびりデモをやっていた方たちはこの本を読んでみてからの感想をお聞きしたい。

「私は国会前で『九条を守れ!』と叫んでいる人たちに聞きたいですね。『あなたたちはいったい何を守りたいのか?』と。専守防衛を守りたいの?だったら、(中略)。非武装中立という九条の真義を守りたいの?だったら、(中略)」

 と、しているうちに、いわゆるシールズなる学生団体が解散すると聞いた。著者は、彼らにも会うことがあったという。

「シールズの若者たちにも、君たちに熱いハートがあるのはわかったから次はマインドを使いなさいと言いたい」「マインドとは頭ということですね」「国民はもう自分の頭で考え始めている。その兆候は出ていると思うんですね」。
 
 彼らのことを一部マスコミが異様に大きく取り上げ、民進党が結党大会にあいさつさせたように、信じられないくらい過大に持ち上げておきながら、まったくその動きが国民の中に共感をもって広がるということがなかった。それは、著者が指摘するように、彼らに知性がまったく感じられなかったこと、考えることをしなかったこと、まさにここに尽きるのであろう。

 国民を見くびってはいけない。丁寧に解説してくれている。