「心にナイフをしのばせて」(奥野修司 著) | 山野ゆきよし日記

「心にナイフをしのばせて」(奥野修司 著)

 ”元少年A”なる人物が本を出したという。私は報道でしか知らないし、もちろん、その本を手に取る気もない。そもそもいくつかの報道にあるように”少年A”に”元”とつけられているのは、おそらくは”少年A”が”更正”した、少なくとも既に”犯罪者”というレッテルを張られるような存在ではないという意味なのであろうか。

 さて、「心にナイフをしのばせて」(奥野修司 著)。少年法で守られた未成年の猟奇的犯罪者の”更正”について深く考えさせられる本である。

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 1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。入学して間もない男子生徒が、 同級生にナイフで殺害され、その後首を切り落とされる。犯人である同級生は”少年A”として逮捕され更正に向けてさまざまな対応がなされたのであろう。

 この事件が再び注目されたのは、神戸でおきた「酒鬼薔薇事件」がきっかけであった。「28年前の酒鬼薔薇事件」として。

 少年法で守られた横浜の少年Aは、その後どのような”更正”がなされたのか。少年Aのその後をノンフィクション作家の奥野修司氏が取材を始めた。

 殺された少年の母は、事件から2年近くを布団の中で過ごし、一時期は事件を含めたすべての記憶を失ってしまうような状態に陥る。父は妻を看病しながらガンを患い亡くなってしまう。妹はさまざまな喪失感にさいなまれ、「私がかわりに死ねばよかった」という思いを抱くようになりついには、リストカットまでも行うようになってしまう。
 
 奥野氏は取材を続け、その後その少年Aが有名私大を卒業、司法試験にも合格し、現在は弁護士としてある地域の名士にも名を連ねているということを知る。一般的には、見事に”更正”したといえるのであろう。

 奥野氏はいろいろな逡巡もあったが、今は立派に”更正”した弁護士である元少年Aに取材を申し込んだ。

 その後、殺された少年の母が電話で、”更正”した弁護士である元少年Aと話をするようになる。その電話口で控えていた奥野氏は信じられない言葉を母親とともに耳にすることになる。

 「金がほしいの?賠償金?払う気ないよ。50万くらいなら貸すよ、印鑑証明と実印持ってきて」 「・・・・息子の命が50万ですか?」

 元少年Aは被害者の家の近くにきて、電話をしてくる。

 「50万もって来たよ」 、「その前に謝って下さい。事件以降一度も謝ってくれていないでしょう」

 同級生を殺害した後、”更正”した弁護士である元少年Aは、彼が殺した被害者の母親の言葉、「謝って」を聞いて激高する。

 「どうしてオレが謝るんだ!」

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 その後、奥野氏が取材したものをまとめた本が刊行されると、その元少年Aから連絡が入る。被害者家族に1,000万円払いたい、と。結局、その後彼は、地元の弁護士会もやめ、連絡が取れなくなったという。

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 少年犯罪者の”更正”ということにも、このような本の出版ということにも、軽々しく踏み込んではいけないテーマではないかという気がして仕方がない。

 ちなみに、私はこの本を読んだのは、当初は興味本位であったことも白状しておく。さらに、もう既に私の本棚に見当たらなかったが、新たに購入しようとも再読しようともとても思わなかった(思えなかった)。記憶をたどりながら、ネットで仕入れた情報をこねくり回しながら今回まとめてみた。