「金沢の気骨」(山出保 著) | 山野ゆきよし日記

「金沢の気骨」(山出保 著)

 連休前に出版された、金沢市前市長の山出保氏の著書。金沢市役所に奉職されて60年近く、特に金沢市長に就任されて以降の20年間の取り組みの集大成といえよう。

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 サブタイトルも「文化でまちづくり」。その一ページ目に、既に、その要諦が書かれている。

「金沢に個性があるとしたら、それは紛れもなく歴史と文化だ。これを磨いて世界に発信しよう。この歴史と文化が映えるように、まちを美しく仕上げよう」

 私は15年間にわたり議場で、山出市長の答弁、つまり、まちづくりにかける理念、哲学、想いを拝聴してきた。著書を読みながら、口調もそのままで、改めて教授していただいている、そんな思いに浸る。

 山出氏は金沢のまちづくりにおいて様々な功績を残されている。その詳細は、本書に譲るとして、仮に、山出氏の功績で最も偉大だと思われるものを一つだけあげるとすれば、意外に思われるかもしれないが、私は「金沢市民芸術村」に尽きると思っている。正確に言えば、その運営である。

 金沢の文化の裾野を広げ、確たるものにするべく、旧大和紡績の赤レンガの倉庫を活用して、文化のインキュベーター施設の意味合いも持たせ金沢市民芸術村とした。そこまで考えつく行政マン、首長はいないわけでもあるまい。

 しかしながら、その運営において、年中無休つまり365日、24時間使用可能とし、音楽・演劇・美術といったジャンルごとに市民ディレクターをおいて、企画運営を委ねる、そこまでは決断は容易ではない。

 市民ディレクター制はともかく、行政施設において、しかも市民に貸し出す施設において、365日24時間OKとはなかなかできない。私自身が金沢市長となりその厳しさは痛感している。

 もちろん、提案したのは審議会の方々であろうが、最終的に決断を下したのは山出市長である。提案した方もした方だが、決断をした方もした方である。なんとも思い切ったものだ。言うまでもなく、山出市長は市役所OBである。民間出身の私でも、否、私でなくてもその決断をできる行政マン、首長はそう多くはいまい。

 繰り返すが、金沢の文化の裾野を広げ、しっかりと根付かせる、そのことが金沢のまちの魅力を高めていくという強い思いがあったればこそであろう。

 山出氏は、著書においてサラっと触れているだけだ。

「『火は出さないように。ゴミの始末だけは頼む。このほかに市は一切口出ししない。頑張ってほしい』開村式の挨拶で私が言ったのはこれだけです。」

 短い記述だけに、なおさら凄みがある。市民を信用し、一緒にまちを創っていくという、それでいて肩肘張らない自然な思いが伝わってくる。

 そのほか、景観施策に対する思いは格段に強いものが感じられる。ただ、読み進めていくうちに、ふっと気になる箇所にあたった。

 当時の中西石川県知事との話の中でのこと。カラス対策について。夜間照明をすることにより、その対策になるのではないかという意見に対して、二人とも消極的であったという。

「『城の石垣の隙間にも虫が棲んでいる。夜は休ませてやろう』自然に対するふたりの思いには、共通するものがあったと思います。」

 何年か前、私が山出市長と話している際、私は夜間景観に工夫を凝らし、ビジネス客、観光客の金沢への滞在時間を長くする考えを述べた。やんわりと同じような言葉でやさしく返されたことを思い出した。

 実は、25年度予算において、私は、夜間景観を含むナイトカルチャーの充実を謳っている。先人のまちづくり施策に思いを致し、慎重にそして丁寧に進めていきたい。

 金沢市及び石川県の職員、特に、若手職員には必携の書といえる。いや、これからいろいろな意味でまちづくりにかかわっていこうという多くの市民にとっても、大いに参考になる著書であろう。