今日から日雇い労働者になった | 山中伊知郎の書評ブログ

今日から日雇い労働者になった

今日から日雇い労働者になった/彩図社
¥1,296
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 『今日、ホームレスになった』でも知られる著者の体験型ドキュメンタリー本。
 つまり著者自身が1ヶ月、実際に日雇い労働者になって、ネットカフェや山谷のドヤなどで寝泊りして金を稼ぎ、収支決算を含めて、すべてをリポートする。

 「自分は、本当はライターという違う階層の人間で、本を書くために、わざとこんなことをやってる」といった、やや上から目線での記述のされ方は気にならないでもないが、仕方ないかな。「本当の日雇い労働者」で、これだけ客観的に状況を描写できる人はなかなかいないわけだし。
 ナマで、ある現場の現在進行形の様子を知りたい、となれば、こうするしかないかも。

 1ヶ月やり遂げた末に、「この生活に少しばかりの居心地のよさ」を感じるかと思ったら、現実、二度とやりたくないと強く思ったのも、ちょっとわかる。
 著者は、日雇いをやってみて、「何も残らなかった」し、次にやれといわれても「絶対にお断り」と言い切る。
そらそうだ。読んでいても、息苦しくなるくらいに、金には恵まれないし、人間としての尊厳が認められない、
機械でいくらでもできるような単純作業の繰り返し。

 体も心も、こりゃ荒んでいくって。
 ただ、一方で人間にとって、何もすることがないほどつらいことはない、だから、どんなに無味乾燥な仕事でも、働くだけまし、も実感としてわかる気がする。


 この本のいいところは、そういう実態に対して、「社会が悪い」だの、「政治で彼らを救え」だの声高に、自分たちの価値観の押し付けをするのではなく、
「ま、こういう境遇になっちゃった連中も、ダメっちゃダメだよね」
 と気楽にかまえて、とりたてて力んだりしないことだ。

 いるでしょ、ホームレスを救え、とか、日雇い労働者を救え、とか叫んで、自分だけいい気持ちになってる連中が。あんなにイヤミなものはない。 自分とて、いつ金に困って、「日雇い」の仕事をする身になるかはわからないにしろ、ああいう連中にだけは救われたくない。