活仏たちのチベット | 山中伊知郎の書評ブログ

活仏たちのチベット

活仏たちのチベット―ダライ・ラマとカルマパ/春秋社
¥1,836
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 チベット人の名前って、長い上に耳慣れなくて、どうも頭に入らない。それで、この本の登場人物の誰が何なのか、今一歩つかみくれないところはあるので、細かくキッチリと読むのはやはり難しい。ただ、大まかな流れを追うだけでも、十分に楽しめた。

 私、転生によって出来上がる「活仏」ってダライラマとかパンチュンラマとか、特別なトップだけだと思ってた。
でも、これ読むと、日本の歌舞伎界じゃないけど、市川団十郎みたいなトップクラスから、もっとマイナーなものから、いっぱいあるらしいんだな。

 それに転生によって跡継ぎが決まるって形式が、その跡継ぎの地域が熱狂的に後援してくれたり、一点に権力が集中しなかったり、けっこううまく宗教と政治を融和しつつ進めていくいいシステムらしんだな。

 なぜ人口の少ないチベットで出来上がったチベット仏教が長く生き延びられたかの大きな要因として、東アジアに、それ以外に、漢民族が作った文化に対抗できる深さを持った文化がなかったから、との分析も興味深い。
 モンゴル人などは、漢文化に完全に取り込まれてしまうのを極端に警戒した。でも、対抗できる文化といったら、チベットで出来上がった仏教文化しかなかったというわけ。このチベット仏教文化が、資源の少ないチベットにとっては、数少ない「輸出品」の一つだったともいわれる。
 だからこそ、チベット人は、愛国心よりも護教心のが強い、ってのもよくわかる。

 ひどい赤字続きのチベット経済は、中国政府にとっては負担になっており、やり方次第ではチベット独立もありうるが、「独立しなさい」といわれたら、かえってチベット側が困っちゃうんじゃないの、との指摘も、うなずける。