漂流家族 | 山中伊知郎の書評ブログ

漂流家族

漂流家族―子育て虐待の深層/河出書房新社
¥1,728
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長野の女性新聞記者による、「子育て虐待」についてのルポルタージュ。
 1998年に長野で起きた乳児虐待死をキッカケに、著者である女性記者は、様々な母と、子供たちに出会う。乳児だけでなく、幼児のころに受けた虐待を引きずる中学生なども登場する。
 さらには識者インタビューとして、子供虐待をテーマに取材を続けるジャーナリストや「市民運動家」ともいえる人まで出てくる。

 学校でのいじめ問題までが入ってきて、こりゃ、取り上げる枠を広げすぎてんじゃねぇの、とも思うが、元来が信濃毎日新聞に掲載されていたものでもあり、新聞記事って、こうやって広げていくのが宿命みたいなもんで、しょうがないっちゃしょうがない。できれぱ「子育て虐待」だけに絞った方が、読みやすかったけど。

 そんな中、識者として登場した精神科医のこの言葉は、非常に衝撃的であった。日本の少子化の理由として、こう語ったのだ。
「今の社会は子どもを産んだってひとつもいいことがないでしょ」

 うなずけるだけに、とても恐ろしいな。確かに、まわりの誰かが協力してくれることは期待できず、子育てといっても、親、ことに母親ばかりが一人で負担を背負わなくてはならないのが大家族崩壊、核家族ですら崩壊しつつある現代日本であり、子供産んだって最初の何年かはしんどいことばかり。
 それが二人もいたら、もうパニックになったって不思議じゃない。

 私だって、他人の子供が電車の中でグズッてたり、泣き出したりしたら、アタマきてその子供の頭でもひっぱたきたくなったりもする。社会そのものが、子どもに対して無関心だったり、非寛容だったりするのも肌で感じる。正直、電車の自分が乗ってる車両にベビーカーが入ってきたりするとがっくりするから。
 つまり虐待親、特に泣きじゃくる子どもをつい叩いてしまう母親の気持ちがわからないでもないってことだ。彼女たちは社会的な意味でも「孤立」している。

 まったく、私を含め、こんなに子どもを大事にしない国になった日本が、いったいこれからどうなるのか、空恐ろしくさえある。
 そういうことを真剣に考えさせてくれた点では、この本を読んだ意味はある。