新作紹介「できるかぎり飾らないデザイン」 | 山本義幸 シルバーアクセ デザイナーブログ

山本義幸 シルバーアクセ デザイナーブログ

シルバーアクセサリーのデザイナー&クリエーターとして自らの製作や想いを語ります。F.A.Lなどのブランドアクセサリーからアーティストコラボのアイテムやグッズ、アート作品としてのオブジェなど、製作活動についてのあれこれをお伝えします。

 
今回はF.A.Lから12月にリリースした新作についてのお話。
 
そーとー脱線した話を書こうと思ってますのでお時間あるときにゆっくり読んでもらえればと。
 
 
Twitterでもつぶやいてたんですが、少し前から「simple」ってなんだろうかと考えていて、
 
試行錯誤してできあがったのがこの写真のリングでした。
 

 

 

 

 
いまではシルバーアクセを作り出したころには考えもしなかった
 
「デザイン」についての様々な課題みたいなことが自分の中だけで繰り広げられていまして。
 
自分の人生に置き換えてもアクセの製作とともに大人の階段のぼっちゃう成長しておりますゆえ、
 
趣味程度にはじめたアクセづくりも20年近くやっているとずいぶん考え方も難解になってきちゃってます。
 
 
 
モノづくりってことでは普段から培いながら模索しいている創作は当然なんですけど、
 
反して会社としては仕事として商品を販売させてもらっている立場といったことや、
 
アートとビジネスって両翼の矛盾でもあることを思い知らされることもあるので、自分は純粋な作家ではないといったことなど、自分が立たせてもらっている状況も昔よりずいぶんと難しい状況だったりもするのかなと。
 
デザインだけではなく、自分のこれからの人生についても「simple」ってことを意識するタイミングだったのかもしれません。
 
 
 
いまだとF.A.Lとしては年間で少なくとも20回くらいのイベントをやっていますが、
 
そのタイミングでお見せする一点物をいくつか作っているといった製作活動の流れの中にいます。
 
一点物で新作を作っては、もちろんレギュラーの新作を作ってはイベントをする。
 
毎年恒例でツアーイベントって形式で展示会的な催事をやっていくって流れが、自然にこのサイクルを作ってしまったんですが。
 
それでも一点物を作り、求めてくれる人に見てもらうってことは純粋に楽しい。
 
一点物のアクセはその完成の答えが人の数だけあるし、
 
それだけにフォロワーから正解って言ってもらえるリアクションもイベントが中心になるだけに感じやすいんです。
 
 
 
これと比べるとレギュラーの新作は、
 
できるかぎり自分と向き合った正解を模索しなければ納得できないとか、
 
リリースしてから何十年も販売していくための完成度を意識したり、
 
何なら完成できたと納得できる着地点までに試作した原型は日の目は見ない。
 
みたくもないのでぶっ壊してしまいますし。笑
 
リリースしても良いと思えるところで完成したとしても同じデザインのアイテムが幅広く販売される「量産」が主軸なだけに、買ってくださっている方の声はこちらまで届かないなんてことがほとんどです。
 
例えば、お会いしたこともない方が取り扱われているショップで、
 
たまたま目にした商品をF.A.Lなんてことも知らずに気に入ってもらえるなんてこともあります。
 
ブランドなネームバリューで買われてることと比べれば純粋に”物”として気に入ってもらえるのはとても幸せなことですけど。。。
 
 
単純に作り手の主観になっちゃいますが、買い手からのダイレクトなリアクションは一点物を作っていることのが充実感があるようにも感じます。
 
 
ただ、作家目線ではワンメイクはどこまでいってもレギュラーのアイテムの答えをそれぞれの人に向けて幅を広げているだけのこととも感じるし、
 
作られるアクセのベース(主題)はレギュラーなくしてありえないって意味では
 
たとえ充実感があったとしてもワンメイクより、自分と向き合ったレギュラーアイテムを創作していくことのが大切だってことのがやりたいこととしてはシンプル。
 
実は充実感を感じやすいモノづくりは本来は作者のやりたいこととはズレるものなのかも?
 
 
別の話、日々の生活においても同じようなことが言えて、
 
趣味からはじめたアクセ製作は趣味のまま続けていたら生活はできなくて。
 
自分が生活するためや大切なスタッフやその家族を養うためには仕事としての収入を得なきゃとなる。
 
でもアクセみたいな価値意識が様々なアートに近い?特殊な業種は、
 
ビジネスとしてだけで割り切ってしている仕事に、人を引きつけるだけの魅力はうまれないもの。
 
仕事になったとしても趣味の感覚と向き合き続ける童心みたいな感覚が必要だったりするんですよね、きっと。
 
「誰かにあわせるんじゃなくて、自分はこれが好きだから。好きと言ってもらえるまでやり続ける」
 
みたいな、それって上から目線?悦状態?慢心?なんて悪く言われてしまいそうな、
 
その感覚と素直に向き合っていくことが大切だと思ってます。
 
それでも、やりたいことが仕事にならなかった時代に「ただの道楽じゃん」なんていわれて反発していたその言葉も、
 
キャリアもそれなりにつめた今になってみれば、自分のアクセ作りが
 
「人生最期はsimpleにやりたいことが道楽になってたら最高じゃん」とか思うようになりました。都合良く。
 
やり続けてみないとわからないことなんてほんとうに多くて。
 
職人って作る物と向き合い続けて自分を知ることも多い。
 
モノづくりの思想と人生の哲学は概念レベルで近いんでしょうか?
 
作りたい物と向き合って人生の教訓に気がつくなんてことも多かったです。
 
そうやってその時代時代にできあがる物に意味があるんだろうなとも思います。
 
若い頃なんて破壊的に空気を読まないモノづくりしがちですけど、それはそれですばらしいことだと思いますし、
 
なんならオッサンになってもそういう感覚忘れずに、やろうって心境になったらいつでも飛べちゃうみたいな感覚でいたいなとも思うし。
 
自分は伝統工芸をやっているわけではないので、先代の人生までをも背負っていかなきゃならない職人さんたちと比べたら、自分のやってることなんてたいしたことないですしね。
 
伝統工芸を時代にあわせて進化させていくことのがよっぽどたいへんなんだろーなーとかって思いますよ。守るべき系譜と変えるべきセンス。
 
前に冗談話で「山本さんが死なないと今作っている物の価値はあがらないですよ~」なんて言われたことがあったけど、
 
人が生きていることの価値なんて、みんなが必死に生きているうちはそれぞれに忘れがちなことなのかもですね。
 
ただ、自分が生きた証が死んだあとも物として残るなんて考えたらずいぶん幸せな仕事してるなぁ~って思っちゃいますけど。
 
その跡を継ぎたいと繋がっていくものが伝統工芸なんだからすごいことですよね。正直、自分自身はそこまでのことは求めてません。オレ死んだらF.A.L終わりで良いんです。ただ、自分が得てきた知識とか技術とかは弟子をもって教えてみたいって願望は少しずつ芽生えてきたかもですけど。でもまぁ、弟子はF.A.Lやらんでいいんですけどね。笑
 
アホな話は置いといて、死しても作った物の形は残ってしまうわけなので、死んだ後も生き恥さらさないように満足いくもの作らなきゃしかないですかね、いまは。
 
なんて、終わりを想像するには早すぎる気もしますが、意識だけしておいて。そんな今日もいましているモノづくりはこれからの通過点なだけなので、感じてることをそのまま形にしていくことが大切だなって思います。
 
「なーんつってな」な心境で、今回は「できるかぎり飾らないデザイン」と向き合うこととなりました。
 
 
と、まぁ、面倒くさいまぁまぁ深い話はこのくらいで。
 
今回の新作を作り始めたきっかけはこんな心境でした。ということで。
 
 
アクセのビジュアルだけのぱっと見ではシンプルすぎるだけに、「山本、手を抜いてんじゃないの?」と思われそうですが、実際はアクセの形としてもかなり試行錯誤しました。
 
 
 

 
リングの基本は甲丸リング?なんてのが常識かはわかりませんが、
 
自分がWAXで初めて作ったリングは何の変哲もない甲丸リングでした。
 
そんな基本に戻ってみてって意識もありつつ、
 
「甲丸リングを基軸にして単純なアウトラインのシェイプと面のエッジだけでデザインをする」
 
といったアプローチが今回の製作テーマでした。
 
このテーマにいままでF.A.Lでやってきた「トランプのゲームを人生に準えて」というコンセプトがデザインになっています。
 
 
それぞれのスートのデザインアプローチといえば、
 

 

剣(ソード)から連想されたスペードマークは男性に似合う力強さを。

 

 

 

 

愛といった意味で心臓からデフォルメ―ションされたハートマークは優しさを感じられるシルエットとしなやかさを。

 

 

 

 

富といった意味のあるダイヤマークは、大人の堅実さと賢さを。

 

 

 
平和を意味するクローバーマークは男女問わない中性的な優しさを。

 

 

ハート、スペード、ダイヤ、クローバーといったスートをそれぞれの意味にそって、
 
甲の丸みの頂点、肉付きのバランス、なだらかに丸みを帯びた角(エッジ)を探りながら形として表現しました。
 
 
JEWELRYの業界ではこの手の考え方はまた別次元かと思います。
 
丁寧に鉄ヤスリでヤスリがけ。寸分の狂いもない厚さにするとか、鉄ヤスリでスルことで金属が硬化する輝きを出すとか。
 
先の伝統工芸の話じゃないですが、そこのところはあまり重要視していません。
 
シルバーって結局は柔らかい金属で傷がつくのが大前提ですし、空気中の成分、身に付けたときの皮脂や硫黄成分などで簡単に変色する金属。
 
その金属の持ち味を素直にデザインするならプラチナやゴールドのマテリアルと同じ製作工程でなくても良いと思いますよってのが、先人のシルバーアクセをつくってきたブランドが成し得てきたことでもあるんだと思います。
 
そもそも銀の素材が大好きで魅了されているのも、傷が付いても味になる、そういった銀特有の経年変化に愛着がもてるってことでもありますし。
 
今回みたいなジュエリーライクなアプローチでも、F.A.Lとして作る以上は基本的に同じ考え方をしてます。
 
 

 

 
 
 
このアイテムのひとつのポイントとして、それぞれのリングの中央にはK18ロウを溶かして溶着させることでスートにスポットを当てるアクセントを作っています。
 
これも傷やその傷に入る変色とゴールドとの金色の経年変化までを想像して採用しています。
 
長年使い続けてたとして、傷が入った銀肌とボコボコした金との表情を想像すると、きっと愛着がもてる表情をみせてくれると思えるんですよね。
 
あと、このリングが完成したときにスタッフに見せたら「この金ってペラっとはがれないですか?」って質問くれたんですが、大丈夫です、剥がれません。メッキのように表面皮膜ではなく、金属の溶着なので削れることはあっても剥がれることはありませんのでご安心を。
 
ちなみに「イブシ」と呼んでる黒化している部分は表面を変色させた皮膜なので、皮膜が厚ければ厚いほどペラっと剥がれます。
「超音波洗浄機で長時間の洗浄をしたら黒色がなくなっちゃった」なんて経験のある方はそういったことが理由なんですが、F.A.Lで製作している工程でのイブシは黒化した銀の皮膜を定着させるために真鍮ブラシでこすってひと手間加えていたりします。実物をみたことあるかたで詳しい方ならお気づきでしょうが、F.A.Lのアイテムの黒くなっている部分は真鍮ブラシでブラッシングしていることでイブシの黒色に少し艶感があるのも特徴です。
 
と、まぁ、余談でしたが、、、
 
今回K18ロウをレギュラーとして取り入れたことはF.A.Lとしては初めてのことなのですが、意味合いとしてもそれなりに思い入れがありまして。
 
自分がROCKミュージックのメッセージに影響を受けたこともあり、
 
「STAY GOLD」=「輝き続けろ」、「そのままの自分であれ」、「美しくあり続けろ」、「成功者であり続けろ」
 
なんて言葉に準えて、実際に「ゴールドをまとわせたい」といったアイデアでもありました。
 
溶かして溶着する際にも、あえてボコボコした質感がでるように溶かしていることで、
 
その肌の質感にどこか自然な雰囲気や人間らしさを感じてもらえればと思います。
 
レギュラーアイテムは「量産」といえど、ひとつひとつ手仕事として磨き上げながらゴールドも溶着させているので
 
すべてが同じようには溶けず、それぞれに個体差はでます。この個体差を自分だけの物として感じてもえれば嬉しい限りです。
 
 
そしてさらに、
 
 
それぞれのリングは別のスートのリングとシェイプが重なりあい、
 
重ね付けで身に付けると別の表情をみせてくれるように作っています。
 
意味合いとしてスートを選ばれる方もいるでしょうが、スートの組み合わせの意味合いで
 
自分らしい好みの意味や付け方も選んでもらえるようにしています。
 
 
ちなみに個人的には思い入れの深い「ドロップアウト」モチーフのリングも製作して、
 
これとも重ね付けができるように考えました。
 
 
自分がこのアクセをつくる道に飛び込んだときに、
 
どこか一般的な安心した暮らしを捨てなければいけないなんて覚悟を決めたときにデザインしたしたのが
 
このピエロスカルでした。
 
 

 
これにも「STAY GOLD」って要素をプラス。
 
左側の額はシャンパンゴールドの石とK18ロウを織り交ぜて「恵まれた知識を」
 
右目は、美しいことに涙できる「黄金の涙」をイメージしたゴールドの使い方をしています。
 
「反骨精神」が当時のテーマだったドロップアウトモチーフも
 
いまとなれば少し大人な印象にできあがってしまったのは、今なりの心境かもしれません。
 
 
 
ちなみに今回リリースしたダイヤとハートのリングの2種だけですが、
 
ゴールドの代わりにカラーストーンで製作したバージョンの物も完成しています。
 
 

こちらはF.A.Lとしては初めてリリースするフリーサイズのデザインにしました。
 
リングの腕が交差するデザインにしてあるので、わりと小さいサイズから大きいサイズまで
 
デザインを壊すことなくサイズ調整が可能となっています。
 
 
オフィシャルでのリリースはウェブサイトの編集やディーラーショップ向けの資料作成などの都合で間に合いませんでしたが、来年すぐにでも追加リリースとして予定しています。
 
 
ということで、かなりな長文になってしまいましたが、ここまで気長に読んでいただきありがとうございました。
 
今回紹介させてもらったアイテムは以下のバナーから詳細もみられますのでぜひご覧下さいね。
 
 ではでわ、紹介つくせないほどモノづくりしてますが、また時間つくってブログ書きますんでこれからも応援よろしくです!!
 
 
 
F.A.L 2018.12 CONFIDENCE CARD & DROP OUT DESIGN LINE NEW RELEASE