"Jumpin' Jack Flash"、3分43秒のこの短い曲が世界を変えたのだ。
1968年5月24日は、ストーンズにとってとても重要な日である。この日、ローリング・ストーンズはUK通算14枚目のシングル・レコード "Jumpin' Jack Flash/Child Of The Moon"をリリースしたのである。
それからしばらくして、中学3年生だったぼくは、ラジオから流れてきた "Jumpin' Jack Flash" を初めて聴くことになる。
「やったあ! なんてカッコいい曲なんだ!」
ぼくは、そう思った。以来、ローリング・ストーンズというバンドは、あの "Jumpin' Jack Flash"をリリースしたバンドとして、ぼくの記憶にはっきりと刻み込まれることになった。15歳だったぼくはこの曲に夢中になった。それから、ぼくは急速にロックの世界に引きづり込まれていくことになる。
村上春樹さんの『海辺のカフカ』の主人公は15歳だったが、たしかに15歳というのは自我というものをコアにおいた、新しい出発点なのかもしれない。
このシングルは、イギリスでは6月にナンバーワンになった。まあ、当然だろうという気がする。アメリカのチャートでも、キャッシュ・ボックスでナンバーワン、ビルボードでNO3だった。
"I was born in a cross-fire hurricane "という1行でスタートするこのナンバーは、ストーンズのすべての楽曲のなかでナンバーワンである。
いや、すべてのロックソングのなかでもナンバーワンだ。
いや、いや、ベートーベンとかマイルス・デイヴィスとか、あらゆる音楽のなかでもナンバーワンにまちがいない。
いや、いや、いや、ドストエフスキーとかランボーとかゴッホとか、すべての表現のなかでナンバーワンだ。
ま、ぼくにとってはという意味だが。
……俺様は嵐の真ん中で生まれた、猛り狂う雨が母親さ。でもいいんだ、俺はジャンピン・ジャック・フラッシュ、最高だ、最高だ、最高だ!
ミックとキースが生まれたのは明るい太陽の光が降り注ぐダートフォードであって、彼らはどちらかと言えばお坊っちゃんである。嵐の真ん中で生を受けた悪魔の子供(ルシファー)などではない。
だがあの時代、若きローリング・ストーンズが体現したロックという音楽、あからさまなセックスとドラッグと鮮烈なビートををコアにおいたその価値観は、旧体制にとってはまさに「悪魔の子供」のような存在だったのである。
ストーンズはまさに嵐の真ん中で生を受けたのであり、 "Jumpin' Jack Flash"はあまりにも象徴的なナンバーであった。3分43秒のこの短い曲が、世界を変えたのだと言ってもいい。
『ローリング・ストーンズ伝説の目撃者達』(amebabooks刊)より