ライブドア・ショック | イージー・ゴーイング 山川健一

ライブドア・ショック

 ぼくは株の売買はやったことがないし、堀江貴文社長をはじめライブドアの方々との面識もない。だが、東京地検特捜部が16日に六本木ヒルズにあるライブドア本社や堀江社長の自宅など関係先数カ所を家宅捜索した、というニュースには驚かされた。
 
 その後、ライブドア・ショックと言うしかない状況がつづいているわけだが、一連の出来事にはあまりにも不可解なことが多い。

 そもそも、地検の家宅捜査はなぜ16日の夜だったのか?

 翌17日には、耐震強度偽装にからむヒューザーの小嶋進社長の国会の証人喚問が予定されていた。
 
 証人喚問では、まず自民党の衛藤征士郎議員が、「ヒューザーと伊藤公介元国土庁長官との関係性は健全である」という趣旨の証言をするよう誘導した。
 だが後の民主党の2人の議員によって、伊藤公介元国土庁長官ばかりではなく、安倍晋三内閣官房長官の政策秘書とヒューザーとの関係までが明るみに出てしまったのだ。

 つまり、自民党にとって、ヒューザーの小嶋社長の国会の証人喚問は、なるべく目立たせたくない出来事だったにちがいない。
 ライブドアの家宅捜索を、意図的に証人喚問の前日、しかも夕刊の後に持って来たと疑われても仕方がないのではないか。
 
 結果的に、17日の朝刊の一面は「ライブドア強制捜査」一色になり、さらに18日の朝刊は、宮崎勤の死刑確定と阪神淡路大震災とで塗りつぶされた。本来トップニュースになるはずのヒューザーの小嶋社長の証人喚問の記事は、小さい扱いとなった。
 
 誰かが、情報を操作しているのではないか……と、多くの人々が思ったにちがいない。あちこちのブログにそういう感想が掲載されているのを、ブロガーの皆さんならもうご存知だろう。
 
 ライブドアの家宅捜索の話に戻る。
 
 まず16日午後4時ごろ、NHKがニュースで「証券取引法違反の疑いでライブドアに家宅捜索が入った」という一報を流した。だが実際には、午後4時時点では家宅捜索には入っていなかったのだ。

 つづいて、日本経済新聞がインターネットのサイト NIKKEI NETで午後4時18~27分、「東京地検が家宅捜索した」と流した。
 午後6時5分に、「家宅捜索する見通し」と差し替え、「その時点で家宅捜索の事実はありませんでした」というお断りを掲載した。

 午後5時ごろ民放各社が「NHKが証券取引法違反の疑いでライブドアに家宅捜索が入ったと報道した」と報道。

 そして実際には午後7時頃、ライブドアに家宅捜索が入ったのである。

 つまり、NHKと日経は、家宅捜索の前にフライング報道したわけだ。
 東京地検特捜部が家宅捜査に入るというようなトップシークレットを、NHKと日経はなぜ知っていたのだろうか。ありもしない事実を、彼らはなぜ事前に「予想」できたのか? 
 多分、政治家に知らされたのだろう。少し前に安部官房長官がNHKに圧力をかけた云々、という報道もあった。
 
 本来、絶対に外部に漏らしてはならない情報を、政治家達は簡単に入手することができるのだろう。
 
 新聞報道やテレビのニュースを、長い間ぼくらは情報ソースにしてきた。だが、それがこうも簡単に操作されてしまうのだという絶望的な事実を、ぼくらは今それぞれの胸元に突きつけられているのである。
 
 少なくとも、東京地検と政治家と報道機関はツーカーの馴れ合いだということが明らかになったのではないだろうか。
 
 耐震強度偽装の問題は、政財界、官僚をも巻き込んだ癒着が市民の生命を脅かしているのだという、非常にシリアスな構造的な問題である。命がかかっているのである。それがこういう形で「報道」されてしまう社会に、果たして未来はあるのだろうか? 
 
 ぼくはもう、新聞報道やテレビのニュースにだけ頼るのはやめにしようと思う。無数のブログを丹念に読み、その中からイマジネーションを働かせ、自分なりに事実を読み取るよう努力しよう。
 
 アフガンやイラクの戦争の時もそうだったが、ぼくらは既にインターネットというメディアを持っている。マスメディアが持つ限界を、多くのブログは楽々と超えていく。
 
 そこに、とても大切な希望がある。
 
 
 経済犯罪をおかした企業が裁かれるのは当然のことだと思うが、ITベンチャー全体を叩き、茶化すようなテレビ番組を見ていると、暗澹とした気分になる。

 もう一度書くが、ブログをはじめ、デジタルには未来への希望があるのだと、ぼくは今も思っている。