小さな頃のことをきちんと思い出そう | イージー・ゴーイング 山川健一

小さな頃のことをきちんと思い出そう

 今、あなたは何かに悩んでいたり、迷っていたりするのかもしれない。
 飛びたいのに上手に遠くまで飛べないのかもしれない。
 夢をなくしたり、夢にやぶれて、味気ない日々をおくっているかもしれない。
 そんなとき、思うことはないかな?
 小さな頃に戻りたいって。
 あの頃は、いろんな可能性があった。
 ベンチャー企業の代表取締役になれたかもしれないし、シンガーになれたかもしれないし、イラストレーターやニュースキャスターになる道だってあった。
 できることなら、もう一度過去に戻ってやり直したい。
 そんなふうに思ったことが、誰にでもあるだろう。
 もちろんまだ若いあなたの前には、無限の可能性があって、未来へとつづく幾筋もの道が目の前にあるだろう。でもあなたが、その膨大な可能性の中から、今につながる道を選んできたのも事実だろう。年齢や性別にかかわらず、誰もが無数の選択を繰り返すことで、今の場所に立っている。
 それを、ちょっと意識してみることが大切だと思う。つまり、自分がどういう選択を経て、どういう場所に立っているのか考えてみるのさ。
 迷ったり悩んだりしたら、立ち止まってみることも大切だとぼくは思う。走り続けることばかりが大事なのではない。
 立ち止まってなにをするのか? 
 子供の頃を思い出せばいいんだよ。
 あなたは、どういう子供だったのだろうか。泣き虫だったのか、気が強かったのか。ずるいところもあり、でも友達には優しかった……。
 それに、どんなに子供っぽいものだったとしても、あなたには夢があった。
 その夢は、でも形を変えて今もあなたのなかに眠っているはずだ。
 ほんとうは、あなたはその夢に続くはずのたったひとつの道をえらんできた。
 その頃の夢を叶えられそうかい?
 それとも、あきらめてしまうべきだろうか?
 ぼくらは、過去は変えられないと思いこんでいる。自分が歩いてきた道は、もう絶対に変更できないと思っている。
 でも、果たしてほんとうにそうだろうか?
 たとえば、あなたの夢は「家族が愛し合って暮らすこと」だとしよう。
 でも子供の時、夕飯の仕度で忙しいお母さんに子供のあなたが纏わりつくので、いらいらしたお母さんがあなたを突き飛ばした。運悪く、あなたは転び、顔に傷を作ってしまった。その傷が、今もうっすらのこっている。
 鏡のなかのその傷を見るたびに、あなたは涙ぐんでしまう。そんなことをした母親を、絶対に許すことはできないと思ってしまう。
 でも、ほんとうに許すことはできないだろうか?
 もうずいぶん昔の歌に" MAMA YOU BEEN ON MY MIND "というバラードがある。ボブ・ディランが書いたのを、ロッド・スチュワートが"Never A Dull Moment"というアルバムのなかで歌っている。
 お母さんに新しい恋人ができたんで、主人公の息子は家を出るんだ。でもふとしたことで、クロスロードに差す太陽の光の加減や、あるいはもしかしたらお天気のせいで、彼はお母さんのことを思い出す。
 ぼくはお母さんを傷つけようとしたわけでもないし、困らせようと思ったわけでもないんだ。答えられないことばかり聞いてごめんなさい、でもぼくはお母さんのことをずっと想ってきたんだ。あなたのことを想ってるというその誰かよりずっと強く、お母さんのことを想ってるんだ。
 でも明日、あなたが目を覚まして鏡を見ても、その隣りにぼくはいない。ぼくはもうあなたの近くにはいないのさ。でもお母さん、ぼくはずっとあなたのことを想っているよ……という歌だ。
 それにしても、ロッド・スチュワートほど悲しみを上手に歌うシンガーを、ぼくは他に知らないね。
 そんな悲しい出来事までふくめて、子供の自分を思い出してみること。そこから今に続く時間の流れを丁寧に辿ってみることが大切だ。
 すると、新鮮な多くの発見があるはずだ。
 そんな発見が、今の自分というものの輪郭をくっきりとさせてくれるにちがいない。
(Photo by Mayumi)
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