働くということ・43 駒崎弘樹さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

特定非営利活動法人 フローレンス
代表 駒崎弘樹さん


前職は、ITベンチャー企業の経営です。
いわゆるライブドアモデルの発想とい
うか、起業して上場して成功者になる
のが、仕事に対するひとつの理想像と
いう考え方ですね。

社会的に大きな問題になってますけど、
僕らの世代にとっては特に違和感のな
い発想なんです。

実際、自分のことを振り返っても、お
金が稼げて、学生事業家としてちやほ
やされて。正直、悪い気はしませんで
した。

でも僕の場合は、やればやるほどモチ
ベーションが下がってくるというか、
上場するために働いて、儲けをさらに
大きな利益につなげるためにまた働い
て……。

自分がやってることは、ビジネスのた
めのビジネスだと考え始めたときに、
オレいったい何をやってるんだろうっ
て感じになってきちゃったんですね。

そんな中で、もっと社会の役に立つこ
とを仕事にしたいと考えるようになっ
たんです。

ただ、社会のためになりたいとか、社
会問題を解決したいとか、そういうの
って、確かに青臭く聞こえると思いま
す。

でも、自分が本当に取り組んでみたい
ことってなんだろう、夢中になれるこ
とってなんだろうって考え抜くと、や
っぱりそういう青臭い部分が自分の中
にはあるぞって気づいちゃったんです。
これにウソをついて生きることは、自
分にとって苦痛だし、だったら正々堂
々と社会のために役に立ちたいみたい
な恥ずかしい欲求を、正面に出して生
きていこうって、考えたんです。

けれども病児保育を新しい仕事として
やってみようと決心するまでには、相
当の決心が必要でした。

なぜならそれまで自ら信じて築いてき
た環境を変えるということは、自己否
定を受け入れるということでもありま
すからね。

しかも、うまくいくかどうかも分から
ないわけで、リスクも伴うわけです。
恐かった。

ただ「やるリスク」とともに「やらな
いリスク」というのも、あるんですね。

リスクって何か新しい行動を起こした
ときに発生すると思われがちですけど、
やらないことによって発生するリスク
もある。

つまり何かを選んでないということは、
選ばないということを選んでいるわけ
で、その挙げ句、死ぬまで“あぁ、あ
れがやりたかったんだけどな”という
思いを抱え続けていくことになるかも
しれないというのは、考えようによっ
ては収入が減るなんてこととは比較に
ならないほど大きなリスクなんじゃな
いかと思ったんです。

しかも僕には、女性の仕事と育児、そ
れも子供が熱を出したりしたときに保
育園で預かってくれないという今の病
児保育のあり方が、解決すべき社会テ
ーマだという確信がありました。

社会のために役立つ仕事がしたくてそ
れを模索していた自分には、この仕事
に飛び込もうという動機づけには十分
だったんです。

今の仕事、必要とされる限りやり続け
たいと思ってます。毎日が変化の連続
で慌ただしいですが、やりがいを感じ
てます。

実は、そう思える仕事とは出会うもの
だと思っていたんです。けれども今の
仕事を選んだ経緯を振り返ると、それ
は見つけるものだったんですね。

僕が学生の頃、ベビーシッターをやっ
ていた母が、“子供の病気を看病する
ために休んだママがクビになってしま
うような社会はひどい”っていう電話
をかけてきたことがありまして。

その時は、気にも留めてなかったんで
すが、自分の転機について真剣に考え
たときに、その記憶を見つけ出せたわ
けです。

なんて言うんでしょうか、ヒントは未
来のドアにあるのではなくて、実は過
去の引き出しの中にあったりするもん
なんですね。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2007年10月号掲載
※内容は、すべて取材時のもので

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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